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あったかい胸
振り向いたら、はずみでぽろっと涙がひとつ転がった。
すぐにぱぱっと拭いたかったけど手がジャンプで埋まってたからジャンプのつるっとした表紙に顔を押し付けた。
「やっぱ吸わないか……」
なんとなく出た独り言。
それを聞いたヒロくんが、振り向いた時はちょっと苦しそうな顔をしてたのにプッと吹き出した。
「んふふふ……ほんと、あんたって……
さっきごめん。言い方、悪かった。そんな寂しがってるって思わなかったし」
ヒロくんが俺の肩をポンポンって叩く。そんなことすら久し振りで、もう俺どんだけヒロくんに飢えてたのって感じ。
「寂しいよ~~!バッティングセンターも映画も、もうずーっと行ってないし……ほんのちょっとでもさぁ……行けないの?」
少し下にあるヒロくんの目を覗き込んだら、なんでかヒロくんが少し後ずさって、ぱーっと赤くなった。すぐに「ったく、あんたほんとに俺より5コも上?」って笑いながら顔を背けたけど、耳の縁が真っ赤っか。
……俺なんかヘンなこと言ったっけ?
「明日…ちょっとならいいよ。5ゲーム分」
「えっほんと!?っていうか5ゲーム少ない。せめて10ゲーム」
「もー……しょーがないな……」
「てかお前、なんで俺のワガママ聞いてやってるふーなんだよっナマイキっ」
「ふう、じゃないわ。まさにワガママ聞いてやってんでしょーが」
ぼん、ぼんと足で蹴り合いっこしながら、すっごい胸があったかくなってく。
ヒロくんと会えなくなってからこういうちょっとしたやり取りがなくなってたのが、こんなに、こーんなに自分を寂しくしてたなんてさ。
「あんたもさぁ……イトコにかまけてないで早く彼女つくってデートでもしてなさいよ」
「出会いがないの!社会人になったら!ヒロくんも大学生のうちにカワイイ彼女見つけときなよ!」
「へーへー。忠言痛みいります」
「……チューゲン?」
俺が首をひねったら、落ちてた漫画を拾って元のように積んでくれたヒロくんが、「はいはい。分かんない言葉は辞書ひきましょーね」ってドアを開けて俺を外へ押し出した。
「じゃあ、明日、午前中は仕上げなきゃいけないレポートがあるから1時出発ね。おやすみ」
なんか、最後はよく分かんないうちにドアを閉められちゃって、俺の脳裏にはドアの向こうに消えてくまだ赤い顔をしたヒロくんの少し俯いた姿が残った。
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