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なんて言おう……
「ここじゃちょっと……ヒロくんの部屋、いい……?」
俺がちょい、ってヒロくんの部屋の中を指差したら、ほんの一瞬間があって「どうぞ?」って中に入れるように体を避けてくれた。
久しぶりに入るヒロくんの部屋。
物が少なくっていつもスッキリ片付いてて、ナチュラルトーンのファブリックも飾らないヒロくんらしい。
ふと目をやると、俺があげた抱きぐるみのワンコはお行儀よくベッドで布団を掛けてもらって、顔だけぴょこっと覗かせてて……
ヒロくんて、顔とか仕草とか可愛いんだけど性格はすごい男前。
だからワンコに布団掛けてあげてるのがなんとなく意外でほっぺが緩んじゃった。
「……で?何。聞きたいことって」
ヒロくんはベッドに腰掛けて俺を見上げた。
うわぁ~……どきどきしてきたぁ……
どうしよう…何から言おう……
「うん……えっと、そのー……ヒロくん今、悩んでること……ない……?あ、あ、ヒロくんがそういうこと他人に言わないの知ってるんだけどね……」
男とホテルに入ってったのを見た……とは流石に言えなくて、まずは取っ掛かりに、と思ってそんな風に言ってみた。
そしたら小さくため息をついて足を組んだヒロくんが、
「特に無いよ。ゼロとは言わないけど、それはみんな同じでしょ」
そう言っていつもの顔で微笑んだ。
少し襟ぐりの大きい紺とグレーのシマシマのカットソーから、夏が過ぎても焼けてない白い首筋やくっきりした鎖骨が覗いてて、それと昨日見たホテルに入ってくヒロくんが重なって、なんだか知らない人みたいに見えた。
だからだと思う。次の言葉を繋げたのは。俺の知ってるヒロくんを確かめたくて仕方なくなって……
「昨日……接待の帰りに……ヒロくんを見かけたよ」
俺にとっては精いっぱいのカマかけ。あれを見られた?って顔をするかどうか、見届けるために目を逸らせない。
けど……
「へえ、声かけてくれりゃ良かったのに」
ヒロくんは顔色一つ変えずにそう返してきた。俺が大好きな、濡れたように光る薄茶の目で俺を見上げて……なんか後ろめたさも隠し事も一切ないって感じでさ。
「いや……なんか人と一緒だったから声かけられなかったの……距離もちょっと離れてたし」
「ふーん」
ヒロくんはあまりにも普通で、本当に俺に声を掛けられても困らなかったみたいに見えて……
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