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陽葵との出逢い、そして新たな決意
水品さんの治療が始まって三ヶ月、その日、彼の診察に病室を訪れると、初めて見る若い女性がベッド脇に座っていた。
その女性は病室に入って来た僕を見ると立ち上がって深く頭を下げた。そして頭を上げると笑顔を僕に向けてくれた。
その彼女を見て、僕は雷に撃たれた様な衝撃を受けた。
その笑顔に僕は一目惚れをしてしまった。
「大森先生、父がいつもお世話になっています。娘の陽葵です。昨日、英国留学から戻って来ました。これから母と交互に父の面倒を見る予定です。宜しくお願いします」
彼女は笑顔でそう言うともう一度僕に頭を下げた。
僕はその笑顔に見とれていたが、ハッとして彼女に挨拶した。
「陽葵さん。丁寧なご挨拶、ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします。それでは、お父さんの診察をさせて下さい」
「はい」と彼女が言いながらベッド脇を空けてくれた。
僕は水品さんに話し掛けた。
「良かったですね。娘さんが来てくれて」
『ハイ、センセイ。ウレシイデス』
水品さんが眼球の動きをパソコンに伝えるとパソコンから声が出る。彼は完全に眼球による会話を習熟していた。
「それでは少し診させて下さい」
そう言って僕は彼の胸を開けて心音確認した。喉には気管切開をして気管カニューレのパイプが取付られており、腹部には胃瘻用のチューブが装着されている。呼吸も食事も自分では出来ない彼にはこの二つの装備が命を繋ぐ鍵だ。
体温と酸素飽和度も確認し、僕は順調だと感じた。気管カニューレのパイプから痰を吸引しながら僕は水品さんに声を掛けた。
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