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新薬HMRー2
プロポースの翌週、僕の新薬は新たなステージに達していた。
ALSには遺伝(家族)性と非遺伝性があるが、遺伝性の場合の原因遺伝子として『SOD1』が同定されており、その遺伝子をマウスに移植するとALS化する事が出来る。僕はそのALSマウスを使って新薬の実験を繰り返していた。その中で僕の開発したHMR―2という新薬がALS化したマウスの症状を劇的に改善する事が確認されたんだ。
僕は大学内の倫理員会に新薬の結果を報告し、二ヶ月後、臨床実験の許可を得ていた。
その結果を次のデートで陽葵に伝えた。そこは僕らの定番のカフェだった。
「来週、お義父さんに新薬の投与が出来る事になった。上手く行けば完全に回復出来る筈だ。勿論、リハビリは必要だけど・・」
「そう・・。ありがとう。やっと陽翔の夢が叶うのね」
そう言いながら陽葵は笑顔を見せながら、でも何処と無く元気が無さそうに見える。
「どうした? 何処か具合でも・・?」
運ばれて来たアイスラテのグラスを手にして、陽葵が答える。
「ううん、全然、大丈夫だよ・・。あっ!」
その瞬間、陽葵の左手からグラスが滑り落ちた。彼女は右手でグラスを確保し、ラテを零す事は防げた。
「ごめん、少し嬉しすぎて、ボーッとしちゃった・・」
僕は笑いながら。
「気を付けないと、服を汚しちゃうよ。それと結婚式の日取りだけど・・」
僕等の『陽葵の花嫁姿をお義父さんに見せる計画』は着実に進行していた。
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