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いなくなった彼女
お義父さんのお葬式を終えた一週間後、やっと少し落ち着いた陽葵といつものカフェで逢う事が出来た。
陽葵は、そのカフェに来た後もずっと無言だった。
「陽葵。僕の力不足でゴメン・・。お義父さんの最期の夢を叶えさせる事が出来なくて・・」
僕もお義父さんが亡くなり失意のどん底だった。絶対、効果が有ると信じていた新薬。絶対、陽葵の花嫁姿を見せるんだという想い。全てが水泡に帰した。
やっと陽葵が口を開いた。でも、その言葉に僕は耳を疑った。
「陽翔。私、貴方とは結婚できません。これはお返しします」
そう言って彼女は僕に指環の入ったケースを突き返した。
「えっ? 陽葵、それはどう言う意味・・?」
「私は打算で貴方との結婚を望んでいました。貴方に近付いて父を新薬で治して貰いたかった・・。それに医者の奥さんになりたかった。そして父に花嫁姿を見せたかった。でも貴方の新薬は失敗し、父の夢も叶える事が出来なかった。だから、もう結婚は出来ないの・・。さようなら」
そう言って陽葵は立ち上がると店を出て行こうとした。
僕は急いで立ち上がり、彼女の右手を掴んだ。
「ちょっと待ってくれ! これまでの君の僕への想いは偽りだったって事か!?」
陽葵が振り返り、怒りに満ちた顔で僕を見た。
「そうよ! 貴方をこれっぽっちも愛した事は無いわ。父を殺した男を愛せる訳無いじゃない! 離して!!」
僕は彼女が言った『殺した』という言葉にショックを受けて彼女を掴んでいた手を離してしまった。
彼女は「フン」と言い、店を出て行く。
僕は余りの衝撃でその場に腰を降ろし、暫く動けなかった。
その後、彼女に連絡をするも携帯番号もメールも全てブロックされていた。自宅の電話も繋がらない。
僕は翌日、陽葵がお義母さんと住んでいた自宅を訪ねたが、引っ越した様で誰も居なかった。僕は完全に陽葵との連絡手段を失った。
僕の前から陽葵は完全に姿を消した。
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