1 はじめまして!キューティーウォリアー参上!

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1 はじめまして!キューティーウォリアー参上!

いったい、どうして、こんなことになったんだ? 今。 世界は、黒い闇に染められ、その中心に牙をむく巨大な黒い獸がいた。 獸の額には、俺の幼なじみがはりつけられていた。 まるで、処刑場の罪人のように。 「礼二郎!」 俺は、奴の名前を呼んだ。 だが、奴は、答えず、獸が咆哮をあげる。 何故。 こんなことに。 ことのはじまりは、学校の帰りに、礼二郎が、隣町の不良たちに絡まれているのを見かけたことだった。 俺は、すかさず、加勢する為に、礼二郎の元へと駆け寄った。 すると、不良たちは、笑いながら言った。 「随分、かわいいボディガードだな、田村よぉ」 「こんな、女の子に守られてんの?お前」 「うるさい!黙れ!」 俺は、叫んだ。 俺の外見は、確かに、少し、女の子に間違われることもあるぐらい童顔だし、ちょっと背も低めかもしれない。 だけど。 俺は、柔道初段で、柔道部の次期主将といわれている漢だ。 「人を外見で判断しない方が身のためだぞ」 「おーお、やる気だ」 不良たちが、面白がって囃し立てる。 「お嬢ちゃん、危ないから、退いてた方がいいでちゅよ」 「貴様らぁ」 俺が、進み出ようとするのを、礼二郎が止めた。 礼二郎は、俺よりずっと背が高くて、目付きが悪い、三白眼の金髪男だ。 ちょっと不良ぽくて、校内でも、物好きな輩がファンクラブを作ってるような、まあ、少し、イケメンな奴だ。 「降りかかる火の粉は、自分で払う」 礼二郎は、そう言うと、不良たちの方へと向かって歩き出した。 言っておくが、礼二郎は、弱い。 まったくの、外見だけの不良だ。 俺は、あれよあれよという間に、不良たちにぼこぼこにされる奴を見ることになると思っていた。 だが。 あっという間に、倒されたのは、不良たちの方だった。 どういうことだ? 俺は、疑問を持ちながら、礼二郎に駆け寄った。 礼二郎は、いつもの礼二郎じゃなかった。 ちらっと、俺を横目に見ると、いきなり俺の手をつかんで歩き出した。 「おい、どこ、行くんだよ、礼二郎」 俺の問いに、奴は、答えなかった。 どんどん、人の流れから離れて、気がつくと、河原の橋桁の下にまで連れてこられていた。 「礼二郎!」 礼二郎は、俺をコンクリートの橋桁へと、押し付けて、俺の耳元で言った。 「本当に、かわいくない奴だな、お前は」 「何だと?」 「少しは、かわいくしたら、どうだ?」 礼二郎は、俺の体を壁面に押し付けたまま、俺に無理やりキスした。 俺は、少し、パニックになって、何とか、礼二郎を突き放そうとした。 だけど。 何故か、力が入らない。 何でだ? キスされたぐらいで。 女の子じゃあるまいし。 俺は、何とか、礼二郎から逃れようとした。 だが、奴の体は、少しも動かない。 どうなってるんだ? ヘタレの礼二郎が、なんで、急にこんなに強くなってるんだ? そんなことを、考えている間に、奴は、俺のシャツに手をかけていた。 無理やり、破いて、胸をはだけられる。 俺は、その場に、半裸で押し倒された。 何とか、体を離そうとするが、全然、ダメだった。 奴の手が、俺のズボンにかかる。 このままじゃ、俺。 幼なじみに、強姦される! その時、だった。 時が止まった。 冗談とかでなく、本当に、時間が止まったのだ。 俺は、奴に抱きすくめられたまま、頭上を見た。 そこには、ちっさいおっさんが、いた。 「誰が、おっさん?」 その、小さいおっさんが、俺に、いちゃもんをつける。 「だから、あたしは、おっさんじゃなくて、妖精、なの」 その、ちょっと気持ち悪い小さなおっさんは、くねくねしながら、俺に、言った。 「何が、気持ち悪い、よ!こう見えても、妖精界でも、1、2を争うスーパーバイザーなんだから。そんな生意気ばっかり言ってる子は、このまま、犯されてしまうがいいわ」 「ちょっと、待ってください」 俺は、藁にもすがる思いで、言った。 「おっ、じゃなくて、お兄さん、助けてくれるの?」 「どうしようかなぁ」 おっ、じゃなくて、お兄さんは、ちょっと目を伏せて、上目遣いに俺を見て言った。 「助けてほしいの?」 俺は、ブンブン、頷いた。 すると、お兄さんは、言った。 「いろいろ、言いたいことはあるけど、まあ、いいわ。あたしは、戦闘妖精、リリアン。助かりたいなら、あなた、あたしと契約して、魔法少女になって、この世界に潜む夢魔"イリュージョン"と戦い、世界を守るのよ。わかった?」 「何だか、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず、わかったから、助けてくれ」 というわけで、俺は、リリアンに指環を渡された。 「この指環が魔法少女のあかし。その指環を左手の薬指にはめて、呪文を唱えると、あら、不思議。あなたは、魔法少女に変身、よ」 俺は、何とか、動かなくなっている礼二郎の下で自分の左手の薬指に指環をはめた。 すると。 光が俺の体を包んだ。 「エンゲージ!」 俺は、叫んだ。 「エターナル キューティー チェンジアップ!」 俺の身に付けていた服が、全て、分子レベルに分解されていき、それが、変化していく。 何だ? これは。 俺は、いつの間にか、礼二郎の体の下から解放され、空中でイナバウアーのポーズをとっていた。 俺は、体を起こし、前方を指さして言った。 「あふれでる乙女心は、無限大。キューティーウォリアー!」 「何?」 礼二郎が、すごく冷たい目で、俺を見ていた。 「ええっ?うわっ!」 俺は、自分の姿にあわてふためいてしまった。 俺は、ミニスカートにスパッツをはいた女の子みたいな姿になっていた。 「ちょっ、リリアン、これは」 「あら、似合ってるわよ。ちょっと胸が小さめだけど、ステキな美少女戦士よぉ」 リリアンがにっこり、笑った。 俺は、言った。 「美少女って、俺は」 「貴様、戦闘妖精、か」 礼二郎が、低い声で言った。 「もう、感ずかれるとは。しかも、魔法乙女まで、連れているとは!」 「そうよ!観念なさい。夢魔"イリュージョン"」 リリアンは、強気に言った。 「大人しくやられるなら、痛い目にはあわせないわよ」 「ふ、ふ、ふ」 礼二郎が、笑い出す。 「この男は、すばらしい夢のエネルギーの持ち主だ。そんなに簡単には、手放すわけには、いかないな」 礼二郎が、片手を振り上げ、叫ぶ。 「世界よ!闇に染まるがいい!」 みるみるうちに、世界は、黒い闇に染められていく。 そして。 礼二郎の影が膨張していく。 それは、やがて、巨大な黒い獸に変化した。 獸の額にはりつけられた礼二郎に、俺は、呼び掛けた。 「礼二郎!」 「無駄だ。この男は、今、深い眠りについている。美しい夢を見ながら」 「美しい夢?」 くくっと、獸は、笑った。 「夢の中で、お前を犯しているのだ」 「何?」 「この男は、ずっと、夢の中で、何度も何度も、お前を犯してきた。それが、この男の望みだ」 「ええっ?」 俺は、だいぶ、引いていた。 礼二郎。 昔は、一緒によく遊んだものだった。 最近、何だか、俺のことを避けるようになって、不良化していっていた。 その礼二郎が、俺を、夢の中で犯してる? 「ちょっと、待ってくれ」 俺は、リリアンを呼んだ。 「何よ?戦闘中よ!」 「いや、あの、これって、やり直しできないの?ちょっと、俺、正直、きついんだけど」 「何が、よ」 「まず、魔法少女じゃねえし」 「はい?」 「それに、いきなり、幼なじみがカミングアウトして、しかも、俺、夢の中で犯されてるって、ちょっと厳しすぎ」 「そんなことないでしょ、あんたは、できる子よ」 「いや、正直、勘弁。だって、俺、男だぜ」 「それぐらい、って、ええっ?」 リリアンが驚きの表情で俺の全身を眺める。 「ウソ!女の子でしょ?ちょっと胸がないけど」 「嘘じゃねえよ」 俺が、リリアンに上着をめくって見せると、リリアンがはっと、溜息をついた。 「発育の悪い女の子じゃなかったのね」 「わかったか?」 俺は、勝ち誇ったかのように言った。 「とにかく、リセットしてくれ、頼むよ」 「でも、ね」 リリアンが首を傾げる。 「あたしは、はるばる妖精界から、強力な乙女心に導かれて、ここにたどり着いたのよ。しかも、魔法少女のあかしの指環が反応してるし」 「そんなことは、どうでもいいんだ!」 俺は、言った。 「とにかく、この件は、なかったことにしてほしい」 「そう、言われても」 リリアンが渋い顔をする。 「一生モノの契約なのよ」 「ちょっと」 獸が、俺たちに呼び掛ける。 「取り込み中、悪いんだが」 「うるさいわね!」 リリアンが一喝する。 「こっちは、大事な話中なのよ。ちょっと、黙ってなさい!」 「はい」 獸が、すごすごと引き下がる。 俺は、リリアンに言った。 「どうにか、してくれるのかよ」 「どうにも、ならないわ」 リリアンが、きっぱり、言った。 「あんたは、つべこべ言わずに、あの獸を倒して、お友だちを救出したらいいのよ!話は、その後!」 「後って」 俺は、いらっとして言った。 「今、すぐに、何とかしてくれって言ってるんだ!」 「あの」 獸が、また、割り込もうとする。 俺は、いらっとして、叫んだ。 「うるせえ奴だな、これでも、くらえ!」 俺は、キュートなポージングをしながら、奴に向かって、ハートのビームを発射した。 「ラブストリーム!」 「しびしび!」 奴は、呆気なく、消滅した。 後には、気を失った礼二郎が、残された。 「礼二郎」 俺は、礼二郎に声をかけた。 礼二郎は、うめき声を上げながら、ゆっくりと目を開いた。 「ここは?俺、いったい、今まで、何を」 「何でもないさ」 俺は、言った。 「悪い夢を見てただけだ」 「えっ?」 礼二郎が、変な表情をして、俺を見つめる。 奴は、ふっと、笑った。 「そうかも、しれないな」 そうして、俺たちは、帰路についた。 しかし。 俺の左手の薬指には、しっかりと魔法少女のあかしの指環が輝いていた。
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