いいから、隣に座れよ。

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 週二日、わたしは佐原さんに勉強を見てもらってる。エリートな彼に家庭教師を頼むなんて贅沢というか、恐れ多いというか。  わざわざ仕事を抜けて、自宅に来てくれる佐原さんに対し、申し訳ない気持ちでいっぱい……。佐原さんはお父さんの無茶ぶりをどう思っているんだろう。  迷惑だろうな。でも特命だから嫌でも断れないんだろうな。  ごめんなさい、出来の悪い生徒で。 *** 「優衣(ユイ)、そろそろ起きないと風邪ひくぞ」 「ん……?」  名前を呼ばれて、目が覚めた。ソファから起き上がると、スーツの上着がかけられていた。紺色の生地に薄いストライプが入った上質なイタリア製。佐原さんのものだ。 「あれ、佐原さん?」  ここは我が家のシアタールーム。読書してたはずが、いつの間にかうたた寝してた。お兄ちゃんと仕事でうちに寄ることが多い佐原さんは、勝手知ったる場所だったりする。 「起きた?」  分厚い書類に目を通していた佐原さんがこちらを見た。相変わらずかっこいい。洗練された美青年は、わたしがソファを占領したせいで、ラグに直座りしている。申し訳ないなと思いながら、なにげない姿も素敵だなとにやけてしまう。 「夢見てました。佐原さんに、家庭教師してもらってた頃の」  日本の自動車業界をけん引する理川電子株式会社(Rikawa Electronics Inc.)、通称RE(アールイー)の社員である佐原さんは、(サトシ)お兄ちゃんの親友で、ふたりは同じセールスプロモーション部で働いている。 「問題は解けたか」 「全然。真っ白でした」 「ふがいないな」  佐原さんが困った生徒だと苦笑した。のみ込みの悪いわたしに根気強くつき合い、大学に合格させてくれた立役者。  感謝してもしきれない恩人だ。そして、わたしの大好きな人。
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