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「今度は俺から質問していいか?」
「いいよ」
訊ねてきたエヴァンに頷く。
彼は一瞬視線を下に落とし、決心したように口を開いた。
「恋人はいるのか?」
そういえば電話でもこの手のことは話してないな、と気づく。
女性に人気なエヴァンに対して、答えを口にするのは少し恥ずかしく、「あー」と口ごもってから言った。
「いないよ。というか、いたことがない。エヴァンに言うのは恥ずかしいけど」
「本当か?」
エヴァンが真剣な顔をして身を乗り出す。意外と食いつかれて、謙吾は少し驚いた。
「うん、ずっと部活に夢中だったから」
視線を上に向けて、昔の思い出を頭の中でなぞる。恋人がいる喜びを想像することもあったが、部活にのめりこんで恋愛をする余裕はなかった。
「そうか」
エヴァンは身体を元の位置に戻すと、口元を緩めた。端正な顔に少しずつ喜びが広がっていく。
エヴァンは恋人いるの? と聞こうとして、慌てて言葉を飲み込んだ。相手は人気俳優だ。もし恋人がいたらきっと答えづらいだろう。
でも、この外見と性格なら素敵な恋人がいそうだなあ、とエヴァンの顔を眺めると、彼は「ん?」と首を傾げた。
「なんでもない」
「ケン、嘘はよくない。何か言いたげな顔だぞ」
「いやいや、なんでもないって」
「また嘘をついた」
爽やかに笑った彼が、からかうように肩を軽くぶつけてくる。その姿はあの有名俳優なのに、中身は電話で何度も話したエヴァンで、まだ慣れなくて少し混乱する。
「俳優のエヴァンを詳しく知ってるわけじゃないけどさ、なんか、ギャップあるね。思いっきり笑ったりしないのかと思ってた」
「俳優の時は素を出さないからな。それに今は楽しいし、何よりずっと会いたかったケンの前だから」
真っ直ぐな言葉と、優しく微笑む品のある顔に、謙吾はまた照れてしまう。
「それ、まるで好きな人への言葉みたいだよ」
照れ笑いを浮かべる謙吾の前で、エヴァンはこくりと顎を引く。
「ああ、そうだ」
「……え?」
冗談で言ったのに、エヴァンはもう一度顎を引く。ぽかんとする謙吾を、美しい瞳が射抜いた。
「好きだ、ケン」
最初はエヴァンも冗談を言っているのかと思った。けれど、金の睫毛に縁取られた瞳は真剣だった。
何も考えられなくなる。面食らって、戸惑い、呆然とした。
「電話で話すうちに好きになっていった。今日会ってみて、ますます好きになった」
エヴァンが目を細める。優しい眼差しだと思っていたが、今は「愛しい」と伝えているように見えて、顔が熱くなる。
謙吾は言葉を忘れて、誰もが見惚れる顔と見つめ合った。
しばらくすると、何か言わなければ、と思った。けれど何を言えばいいのかわからなくて、開けた口から声が出ない。
エヴァンは少し困ったような顔で笑った。
「突然で困らせたよな。どうしても会って伝えたかっただけだから、返事はしなくていい」
こちらを安心させるように微笑む彼の優しさに、胸が苦しくなる。もったいないくらいエヴァンはいつも優しくしてくれる。
謙吾は曖昧に頷いた。結局エヴァンの優しさに甘えてしまう。
告白されたのなんてはじめてだ。エヴァンのことは友達として好きだったから、正直とても戸惑っている。
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