2

2/6
777人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「今度は俺から質問していいか?」 「いいよ」 訊ねてきたエヴァンに頷く。 彼は一瞬視線を下に落とし、決心したように口を開いた。 「恋人はいるのか?」 そういえば電話でもこの手のことは話してないな、と気づく。 女性に人気なエヴァンに対して、答えを口にするのは少し恥ずかしく、「あー」と口ごもってから言った。 「いないよ。というか、いたことがない。エヴァンに言うのは恥ずかしいけど」 「本当か?」 エヴァンが真剣な顔をして身を乗り出す。意外と食いつかれて、謙吾は少し驚いた。 「うん、ずっと部活に夢中だったから」 視線を上に向けて、昔の思い出を頭の中でなぞる。恋人がいる喜びを想像することもあったが、部活にのめりこんで恋愛をする余裕はなかった。 「そうか」 エヴァンは身体を元の位置に戻すと、口元を緩めた。端正な顔に少しずつ喜びが広がっていく。 エヴァンは恋人いるの? と聞こうとして、慌てて言葉を飲み込んだ。相手は人気俳優だ。もし恋人がいたらきっと答えづらいだろう。 でも、この外見と性格なら素敵な恋人がいそうだなあ、とエヴァンの顔を眺めると、彼は「ん?」と首を傾げた。 「なんでもない」 「ケン、嘘はよくない。何か言いたげな顔だぞ」 「いやいや、なんでもないって」 「また嘘をついた」 爽やかに笑った彼が、からかうように肩を軽くぶつけてくる。その姿はあの有名俳優なのに、中身は電話で何度も話したエヴァンで、まだ慣れなくて少し混乱する。 「俳優のエヴァンを詳しく知ってるわけじゃないけどさ、なんか、ギャップあるね。思いっきり笑ったりしないのかと思ってた」 「俳優の時は素を出さないからな。それに今は楽しいし、何よりずっと会いたかったケンの前だから」 真っ直ぐな言葉と、優しく微笑む品のある顔に、謙吾はまた照れてしまう。 「それ、まるで好きな人への言葉みたいだよ」 照れ笑いを浮かべる謙吾の前で、エヴァンはこくりと顎を引く。 「ああ、そうだ」 「……え?」 冗談で言ったのに、エヴァンはもう一度顎を引く。ぽかんとする謙吾を、美しい瞳が射抜いた。 「好きだ、ケン」 最初はエヴァンも冗談を言っているのかと思った。けれど、金の睫毛に縁取られた瞳は真剣だった。 何も考えられなくなる。面食らって、戸惑い、呆然とした。 「電話で話すうちに好きになっていった。今日会ってみて、ますます好きになった」 エヴァンが目を細める。優しい眼差しだと思っていたが、今は「愛しい」と伝えているように見えて、顔が熱くなる。 謙吾は言葉を忘れて、誰もが見惚れる顔と見つめ合った。 しばらくすると、何か言わなければ、と思った。けれど何を言えばいいのかわからなくて、開けた口から声が出ない。 エヴァンは少し困ったような顔で笑った。 「突然で困らせたよな。どうしても会って伝えたかっただけだから、返事はしなくていい」 こちらを安心させるように微笑む彼の優しさに、胸が苦しくなる。もったいないくらいエヴァンはいつも優しくしてくれる。 謙吾は曖昧に頷いた。結局エヴァンの優しさに甘えてしまう。 告白されたのなんてはじめてだ。エヴァンのことは友達として好きだったから、正直とても戸惑っている。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!