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「ケンは?」
「え?」
「ケンは俺のことをどう思っているんだ?」
言葉に詰まった。えっと、と呟いてから口を開く。
「かっこよくて、優しくて、話すのが楽しくて……思いっきり笑った顔がキュートで……こっちがいっぱいいっぱいになるくらい、魅力が溢れてる人……かな」
どんどん顔が火照っていく謙吾の耳元で、エヴァンが嬉しそうに笑う。
「ありがとう。ケンは人を褒めるのがうまいな」
「俺がこういうことを言えるようになったの、エヴァンの影響だと思うよ」
「そうか?」
「うん……エヴァンはいつもストレートな言葉で褒めてくれるから」
向こうから吐息のような笑い声が聞こえた。
「俺は下心があるからな」
突然の言葉に目をしばたたかせる。またしても言葉が出てこなかった。
「ケンは素直で、とても可愛いよ。話しているだけで癒されるのは、ケンがはじめてだ」
親友と話すのも楽しいが、ここまで癒されるのはケンだけだ。そう言葉が続いた。
こういうことを言われるのは慣れていない。ますます顔が熱くなる。
ふいに、チャイムの音がした。聞きなれないそれは、エヴァンの家のものだろう。
「ああ、悪い、マネージャーが来たみたいだ」
「じゃあ、またね。仕事頑張って」
「好きだよ、ケン」
甘ったるい声を最後に、電話が切れた。
「っ……」
携帯電話の画面を凝視する。エヴァンがそこに映っているわけじゃないのに、思わず見てしまった。
「はあ……心臓に悪い」
片手で目元を覆う謙吾の耳が、真っ赤に染まっている。
耳に甘い声がまとわりついて、エヴァンの姿がずっと頭から離れなかった。
エヴァンとの電話を終えた謙吾は、借りてきたDVDを再生した。
すぐに主人公役であるエヴァンが映り、物語が進んでいく。
映画の中のエヴァンを見て、本当にこの人に会ったんだな、と実感した。あの時公園で話した彼が、画面の中にいる。
映画が中盤にさしかかるまでは、見入っていた。迫力のあるアクションシーンは格好よく、クスッとする会話も好みだった。
けれど主人公とヒロインが思いを伝え合うシーンになって、無意識に拳を握った。
一度引っ込んだはずの、もやもやとした重苦しさが、再び顔を出す。
画面の中で、エヴァンと女性が顔を近づける。謙吾は息を呑んだ。彼らは鼻を軽く触れ合わせて、微笑んでいる。
お互いの唇が付きそうになった時、リモコンの停止ボタンを押した。
気がつけば鼓動が早鐘を打っている。喉に苦いものが込み上げる。急激に手足が冷えた。
画面から目を外す。暗い気分になって、どうしてもそこから先を見ることができなかった。
***
「それでランニングの時間を、その犬に会える時間に変えたんだ」
耳元からエヴァンの声が聞こえる。三日ぶりの会話だった。
「すごく可愛いんだ。ケンも会えばきっと虜になるよ」
「会ってみたいな」
「動画を撮らせてもらえたら送るよ」
「ありがとう、楽しみにしてる」
エヴァンと会話しながらも、画面の中で女性と鼻を擦り合わせていた場面が浮かんで、唇を噛む。振り払うように頭を振る。
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