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「ケン、元気がないようだが、何かあったのか?」 急に真面目になった声に、謙吾は慌てた。 気づかれないように明るく振舞っていたのに。 「何もないよ! 大丈夫、ちょっと眠いだけ」 無理やり元気な声でそう言えば、電話の向こうで「そうか……」と呟きが落ちる。 「何かあれば言ってくれ」 「うん、ありがとう」 やっぱりエヴァンは優しくて、罪悪感が胸に滲んだ。 通話を終える直前、前と同じように彼は甘い声を出した。 「好きだよ、ケン」 耳が熱くなった。熱はすぐに頬、首に広がる。 頭の中に様々な映像が浮かんでは消えていく。初めて会った時の、サングラスを外すエヴァン。「好きだ」と伝えてきた彼の瞳の美しさ。 「俺っ」 「ん?」 「……っ、ごめん、なんでもない」 謙吾は携帯電話を握りしめた。自分が何を言おうとしたのかに気づいて、目を見開く。 いま俺は、「俺も好きだ」と言おうとしていた。 *** 「というようなことがあって」 「へえ」 電話の向こうの従兄弟の声は、興味深そうだった。 「俺、もう自分の気持ちがわからないんだよ。わからないことだらけだ」 「落ち着いて」 従兄弟が少し笑う。 謙吾はエヴァンという名前を出さないで、従兄弟に相談をしていた。友人にはからかわれる可能性が高かったし、彼には最近恋人ができたらしく、何かアドバイスをもらえないか、とすがる思いだった。 「いったん整理しよう」 従兄弟の柔らかい声は、最後に会った時と変わらない。 「告白をされた時、謙吾は相手に恋愛感情がなかった」 「そうです」 「でも先日、その人、仮にAさんとするよ、Aさんが他人と仲良くしていて、嫌な気持ちになった」 「そうです」 映画の中のことだけど、と胸の中で付け足す。 「昨日、Aさんに無意識に、『好きだ』と言おうとした」 「そうです」 「でも自分がAさんを本当に好きなのか、わからないと」 「そのとおりです」 うーん、と従兄弟が唸る。同じように謙吾もうーん、と唸った。 「もし俺がAさんを好きになっていたとしても、告白された時は何とも思ってなかったから、罪悪感があるんだ」 「罪悪感かあ」 そうだ、あの時は友達としか思っていなかった。けれどいつのまにか、今日という日がエヴァンにとって幸せな日になるように、毎日願うようになった。これも友情に入るのだろうか。 「告白されてから、以前より会いたいなーとか、思う?」 「まあ、思うよ……今は前よりAさんのことを考える時間が増えたかな……もっと一緒にいたいとか、いま何してるのかなとか、毎日考えてる」 恥ずかしいことを口にしている自覚はある。が、せっかく話を聞いてもらっているのだから、恥ずかしがっている場合ではなかった。
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