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従兄弟との通話を終えた謙吾は、部屋を出て自転車を走らせた。 十分ほど薄暗くなった道を走る。 ペダルをこぎながら、エヴァンのことを考えた。「好きだよ」と言った彼の声を思い出し、口元がにやけた。 DVDレンタルショップに着く。 自転車を停めて中に入ると、映画のDVDがある場所へと歩く。 DVDが並べられた棚を次々と見て回った。 幸運なことに、エヴァンの特集コーナーがあった。もうすぐ主演映画が公開予定だからかもしれない。 前と同じように、エヴァンが出ている映画を借りる予定だった。ただ、一つ一つの映画がどういう内容なのか、調べてくるのを忘れていた。 何作品もあるパッケージを前に、どうしよう、と悩む。 携帯電話で調べるべきか、パッケージ裏の説明を読んでいくか。 「あの」と声をかけられたのはその時だ。 気がつけば隣に女性が立っていた。謙吾と同い年くらいに見える。黒髪を一つにまとめている。 「あ、すみません、邪魔ですよね」 てっきり特集コーナーを見たいのかと思って脇にどいたが、女性は「いえ」と引き止めるように手を上げた。 「エヴァンがお好きなんですか?」 心臓が跳ねた。直球を投げられて、「好きかどうかまだわからなくて、さっき相談したばかりなんですよ」と答えそうになる。 「ど、どうしてそれを」 「特集コーナーをじっくり見ていたので……。私、昔から彼のファンなんです。だから嬉しくなって、つい声をかけちゃいました」 突然すみません、と恥ずかしそうに謝る彼女の言葉を理解して、謙吾は慌ててうなずいた。 「俺、エヴァンのことを最近知ったばかりで、彼が出ている映画を観たいなーと思って」 「そうなんですか?」 彼女の顔が、同志を見つけた、と明るくなる。 「もしよかったら、ラブシーンがない作品を教えてくれませんか?」 彼女は息を呑んだ。その反応に謙吾は「え、なに?」と動揺する。俺何かまずいこと言ったのかな。 女性の唇が小さく動いた。「ついにこの時が」と呟く。 瞳を輝かせた彼女は、まかせてください! と拳を握った。
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