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「のどかでいいな」 エヴァンが心地よさそうに目を細める。穏やかな風が彼の金髪を静かに揺らした。 謙吾とエヴァンは公園のベンチに座っていた。隣に座るエヴァンの身体はたくましく、抑えきれないオーラが漂っていて、まだ少し緊張する。 アクションも自分でこなしていると聞いたことがある。日々努力して鍛え上げられた身体を見ていると、視線を感じて顔を上げた。 「予定が狂ってしまって悪いな。行く場所を調べておいてくれたんだろ?」 ハンサムな顔が申し訳なさそうに眉を下げた。 「気にしないで。俺はエヴァンと話せればどこでもいいから」 数時間しかエヴァンとは一緒にいられない。だから何日も前から、その数時間で楽しんでもらえるように、色々と調べていた。 予定にはなかったが、公園でゆっくりするのもいいな、と今は思っている。 「公園でのんびりするのは盲点だったなあ」 謙吾は緩く笑ってエヴァンを見上げた。端正な顔は少し驚きを浮かべたあと、まるで宝物を見つけたかのようにふわっと笑う。 何だろう? と不思議に思ったが、先ほど彼に笑顔が好きだと言われたことを思い出し、顔が火照る。 「こうやって直接会って話せるのはいいな。ケンの色々な表情を見られて嬉しい」 薄い色気を滲ませる顔がくしゃっと笑った。あ、こんな笑い方もするんだ、と知らなかったその表情に、胸をトン、と軽く突かれたような衝撃が走る。 「それに、ここなら人の目を気にしなくていいから、楽だ」 楽という言葉に、彼がいつも気を張っているのがわかった。日本でさえ彼は有名なのだから、自分が住んでいる国ではもっと人の目を気にしなければいけないのだろう。 「エヴァンがいいなら、今日はここにずっといる? 自動販売機もあるし、近くにコンビニもあるから食べ物も買えるし」 「いいのか?」 「うん」 こくりと顎を引けば、彼の顔に喜びが浮かんだ。 自動販売機で飲み物を買って、再びベンチに座った。エヴァンが奢ってくれた炭酸飲料を飲むと、爽やかな味が口に広がる。 隣のエヴァンは缶コーヒーを飲んでいて、彼の後ろに見える木々の緑と、色鮮やかな遊具、そして肌で感じる和やかな雰囲気、すべてが調和しており、まるでCMのようだった。 映像を体感しているみたいだ。 「やっぱり、こういう場所は落ち着くな」 息を軽く吐いたエヴァンと視線が交わる。綺麗な瞳は穏やかな光を携えている。 「公園とか好きなの? 賑やかなところが好きそうだなって勝手に思ってた」 たぶんニュース等で、スーツを着て華やかな場所にいる姿しか見たことがないからだろう。 「華やかな場所に行くことが多いが、本当は静かな場所が好きなんだ」 エヴァンは正面に顔を戻して、一度コーヒーを飲んだ。それから缶に目を落とす。一つ一つの動作に品があった。 「演じるのは好きだが、多くの人と関わるのは苦手だ。でも、この仕事をしていたら避けてはいられない」 苦々しく微笑む顔は、「しょうがない」と言っているようだった。 今まで何度も画面の中で見ていた彼の意外な言葉に、謙吾は驚いていた。それとともに、彼の素の部分を知れた喜びもあった。 「そうなんだ……。あの、気になることがあるんだけど」 「なんだ?」 「エヴァンは何で俳優になろうと思ったの?」 答えたくなかったら別にいいんだけど、と付け加える。俳優になったら多くの人と交流するのはわかっていたはずだ。それでもなったということは、何か特別な理由があるのだろうか。 エヴァンはこっちに顔を向けて、目尻に皺を寄せた。 「幼い頃に劇をやったら、親友が褒めてくれたからだ」 幼い頃を思い出しているのか、懐かしそうな表情だった。
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