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「ーーーはい、もしもし」
司とは、あれから毎日のように電話やメッセージアプリで会話をしている。
司も選挙の後、自身の店舗の近くにあるという自宅マンションへ戻っている。
選挙期間中、店はスタッフに任せきりだったらしいが、何故か司がいる普段より売上が上がったらしく、『何か腑に落ちないわ』とぶつぶつ言っていた。
智樹の通う大学に程近いところにあるそのマンションに、週末の明日は遊びに行く予定だ。
ついさっき、ここに紀子が来ていたことを告げると、電話の向こうで小さな悲鳴が上がった。
『あんた、取って食われなかったでしょうねっ!?』
司の中で、紀子はどんなモンスターなのかと笑いたくなる。
それから、この副市長騒動での千春が冷静すぎて逆に怖いとか、連太から岳志におめでとうのメッセージが届いたとか、そんな話を一頻り聞いた。
『明日は楽しみにしてるわ』
明日は、司が手料理を振る舞ってくれるという。
『ふふっ、もうあんなにたくさん作ったりしないから、安心して』
前に、大量の料理を作っていた司は、何かしていないと落ち着かなかったのだと言う。
『ねぇ……ほんとはこんな時、無理にボンのこと忘れなくていいって言うのが正解なんでしょうけど……ダメよ。一刻も早く、忘れてちょうだい』
「え?」
『もうね、あんな風に待つのは耐えられないの。大丈夫よ、私が忘れさせてあげるわ、きれいさっぱり』
司は、表現がストレートだ。
愛の言葉も自然と口に出せる司は、クォーターだからというよりは、元々の性質なのだろう。
これまで片想いしかしてこなかった智樹は、自分に向けられるその真っ直ぐな気持ちが、嬉しくて仕方ない。
「……僕、もう司さんのことで、一杯ですよ? ……こんな気持ちになるの、初めてです」
『ふふっ、可愛いこと言うじゃない』
電話越しの司の声が、胸に熱く広がってゆく。
『愛してるわーーー智樹』
(おわり)
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