選挙戦初日

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「お待たせ!」 司が智樹の横に勢いよく乗り込むと、千春が腕章を渡した。 「お兄さんの具合はどうでしたか?」 「かなり元気よ! 顔色も良くなったし。まぁ、まだ寝返りも打てなさそうだったけど」 「そうですか。後は、日にち薬でしょう。順調そうで良かったです」 口元を緩める千春に、司も嬉しそうだ。 「ありがと。兄さんがよろしく言ってたわ。……あんたにも」 「えっ」 ちらりと視線を投げられ、智樹はドキリとした。司はふとした表情が、何とも色っぽい。 「兄さんが、あんたにもお礼言っといてくれって。カラス代わってもらってーーーちょっと! それ、私のスマホ!」 「え? あっ」 智樹は、手にしていたスマートフォンを引ったくられて、びっくりした。 司が車に乗り込んだ時にお尻で踏みそうになったのを、智樹が咄嗟に取り上げたのだ。 「何であんたが持ってんのよっ」 「えっ」 じろりと睨まれ、返事に詰まってしまう。智樹がおろおろしていると、千春が小さくため息をついた。 「司くん、病院行く時に車に忘れて行ったでしょう。智樹くんは、そこに落ちてたの拾ってくれたんですよ」 「えっ」 何故か、言われた智樹が驚く。 (そうだったんだ) 「ーーーそうなの?」 声が幾分柔らかくなり、智樹はほっとした。 「はい、そこに落ちそうになってて……」 「……気付かなかったわ。ありがと」 司がストラップの人形にそっと触れると、少し口元が綻んだ。 「すみません、ちょっと後ろの車と打ち合わせてきます。待っててください」 自身のスマートフォンを確認した千春が車を降りると、運転手もそれに従った。
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