モモタロウ

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モモタロウ

(だから、できないって、こんなの……) 智樹は情けない顔に笑顔を貼り付けて、商店街の人にチラシを配って歩いていた。 その先頭には先程合流した岳志がいて、少し離れて千春が付き添っている。 そしてスタッフと共に智樹の前を歩く司が、ハンドスピーカーで淀みなく喋り続けていた。 「ーーー商店街の皆様にご挨拶に伺っておりますのは、桜木市市長候補の京極、京極たけしでございます。生まれ育ったこの街に恩返しがしたい、その一心で立ち上がりました、京極、京極たけし、皆様のお膝元、ご挨拶、そしてご支援のお願いにーーー」 桃太郎なるものの謎は解けた。 商店街などで、候補者とそのスタッフらが周りに挨拶をしながら歩くことをそう言うらしい。旗を持ってぞろぞろと練り歩く姿が、昔話の桃太郎が鬼退治に行く時の様子に似ていることから、その名がついたのだそうだ。 (原稿、全く見れないじゃん。無理だって……) 商店街の人の反応は、かなり友好的なものだった。一行が通り掛かると、店の奥からも人が出てきて手を振ってくれたり、何かしら声を掛けてくれる。 元々人気のある岳志はすぐに誰かに捕まってしまい、歩みが止まる。 ひとつ所に留まると司はマイクのスイッチを切るのだが、そうすると彼の周りにも人だかりができるのだった。 (すごい、司さん握手求められてる……) その端麗な顔に微笑みかけられて、顔を赤くしながらも『頑張ってください』と手を差し出す女性が後を絶たない。 司はその都度握手を交わし、頭を下げながら、 「ありがとうございます、京極を、よろしくお願いします」 と、優しく丁寧に応じていた。
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