千波岬

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ラムネを飲んだ後、優衣さんの家に行った。 優衣さんの家は二階建ての小さなアパートの202号室、二階に上がって2つ目の部屋だ。 優衣さんは、上品なブルーの箱から白く輝く鍵を取り出した。 「ねぇ、優衣さん。その鍵はなにでできているの?」 「これ?これはね…、う〜ん、大家さんに聞いてみるといいよ。ほら、暑いから、早く中に入ろう。」 玄関に入ると甘くて優しい、優衣さんの匂いがした。 玄関の前には短い廊下があって右手側に寝室、左手側にはお風呂とトイレ、廊下の先はキッチンがある部屋。 真っ白な貝殻ののれんをカラカラと鳴らしてキッチンの部屋に通された。 一軒家に住んでいる私から見たら狭いのだけれど、優衣さんの家は家具のセンスが良くて、とても住みやすそうに見えた。 「荷物は適当に、ソファの横にでも置いといて。あ、その段ボールはゆずちゃんの洋服ね。ゆっくりしてて。」 そう言って、優衣さんはどこかに消えた。 1人になって、もう一度部屋を見回してみた。 珈琲色のソファ、小さなテレビ、木でできた丸いテーブル、水色と青のボーダーの綿のカーペット、窓にはサンキャッチャー。 こんな部屋、ドラマの中でしか見たことないな、なんてことを考えていると優衣さんがピンク色のジョウロを持って戻ってきた。 優衣さんは下手なウィンクをして見せた。 ついて行くとベランダにいくつかのプランターがあって、それに水をやっていた。 「これはバジルで、こっちはキャンディーミント、その黄色いお花はマリーゴールドっていうの…」 そんな風にひとつひとつ紹介してくれた。 優衣さんが育てている植物は全部食べれるらしい。 水をやり終えた優衣さんは伸びをして 「お昼ご飯、作ろっか。何が良い?」 私はこの質問があまり好きではない。 なにが食べたいかと聞かれても好き嫌いは特にないからなんでも良い。でも、なんでも良いと言うと逆に困らせてしまう。 何と答えようか回答に迷っていると 「わかんないよね。私もこの質問は苦手なんだ。ゆずちゃん、嫌いな食べ物とかない?」 と聞かれた。 優衣さんは人の心が読めるんだろうか。 「ううん、何でもすきだよ。」 と笑顔で返すと 「じゃあ、今日はいつもより、ちょっとお洒落なのにしよっか。」 と、優衣さんはいたずらに笑った。 スーパーに材料を買いに行って、優衣さんと料理をした。 大きなホットプレートにご飯やエビ、パプリカなんかを並べて蓋をする。 途中で優衣さんに目をつむるように言われた。 私は目をつむっている間に優衣さんが何をしていたのか早く知りたくてたまらなかった。 火が通った頃、優衣さんが蓋を開けるとご飯の上に赤や黄色、紫などの色とりどりの花びらが飾らられていた。 「きれい。このお花さっき飾ったの?」 「そうだよ。ゆずちゃんは、エディブルフラワーって知ってる?」 私は首をぶんぶん横に振った。 「なぁに、それ?」 「このお花たちのことなんだけどね、これ、食べれるの。」 「この紫のお花お母さんが育ててたよ。」 「うん、だけど、お家のは食べない方がいいね。」 「どうして?」 「このお花たちみたいに食べれるお花もあるけど毒があるお花もあるし、普通のお店とかで売ってるのは薬が使われてるから人間の体には毒なんだ。でも、安心してね。これは、私が育てたお花だから。」 「へー、そうなんだ。すごいね、優衣さんは。」 優衣さんと作った料理はパエリアと言うらしい。 「おいしい。こんなにおいしい料理食べたことない。」 「あれ?お母さんはパエリア、作ってくれないの?」 「うん。」 「あの子、大雑把だものね…。でも、お母さんのお母さんはパエリア作ってたのよ。私のより何倍もおいしかった。」 「お母さんのお母さん…、おばあちゃん!作れるの?」 「うん、今度頼んでみなよ。喜んで作ってくれるよ。」 「うん!」 お腹も膨れてすっかり眠くなってしまった私はソファで眠ってしまった。
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