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その頃、優衣さんと乃ノ花ちゃんのお父さんは…
私と康平は藤の花の葉が生い茂る屋根の下のベンチに腰を下ろした。
「どう?うまくやってる?」
「それがさぁ、なかなか売れなくて…。」
「本?」
「ああ。それで、美咲には苦労かけてばっかで…。とうとう俺、あいつの引き出しの中に離婚届が入ってるの見ちゃってさ。」
「やばいね。ドラマだね。」
「人の不幸を喜ぶな。」
「喜んでないよ。ただ、やっぱりあの人、お金目当てだったんだなぁって。だって、康平、2回も振られときながらめげずにって言うか、しつこく美咲さんに迫って、結局3回目にOKもらったのあんたの本が受賞した時だったでしょ?」
「それは、そうかもしれないけど…。」
「そうかもしれないけど何よ。俺たちは愛し合ってたんだとか臭いことでも言うつもり?そんでもって、今更になって金目当ての顔と胸だけが取り柄の最低女だってわかったとたん私んとこに来るわけ?ふんっ。あんたって男は。」
あんたって男は…、昔から変わらないのね。
「…。」
「…とけば良かったのよ。」
「えっ?」
「だから、あの時、私にしとけば良かったのよ!2人で夏の暑い日に行ったじゃない。鯉に餌あげたり、お揃いのキーホルダー買ったりした…」
無意識に涙が溢れそうになる。
だめよ、優衣。しっかりしなくちゃ。
「もう今更…」
「すまない!…」
言葉がぶつかる。
「お先にどうぞ。」
「いや、なんでもないの。だから、康平がどうぞ。」
「でも…。ああ、わかった。俺から話す。いや、だから、その…、あの時はすまなかった。」
「康平…」
「俺は何にも考えてなかった。お前がそばに居てくれたことに何も感じていなかった。お前は、俺が気づくずっと前からわかってたんだよな。俺たちが互いにとってどんな存在か。俺は、気づくのが遅すぎた。本当にすまない。」
「それで?」
「美咲とは、離婚する。離婚して別れた後は、俺の家に来て欲しい。家賃は俺が払う。金はなんとかするから、家に来て俺と暮らして欲しい。俺は、情けないけど、お前がいてくれないとダメなんだ…。お前に、側にいて欲しいんだ。」
現実味の無いことをペラペラと喋っていたが、その眼は真剣だった。
「ロマンチックなこと言うじゃない。気持ちは嬉しいけど、本当にお金は大丈夫なの?それに、乃ノ花ちゃんは…、乃ノ花ちゃんはどうなるの?」
さわさわと風が藤の葉を揺らした。
木漏れ日が右へ左へと揺れる。
乃ノ花ちゃんはゆずちゃんと楽しそうに笑っていた。
まだ、あんなに小さいのに…
私は公園で駆け回る乃ノ花ちゃんとゆずちゃんをただただ、見守ることしかできなかった。
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