シンデレラ

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シンデレラ

次の日、優衣さんが起きる気配がして目が覚めた。 まだ外は暗くて、カーテンは夏の朝の青白い光を透かしていた。 洗面所について行くと後から来た私に気づいた優衣さんは寝ぼけ眼で 「ゆずちゃん、早いね。おはよ」 と笑った。 今日は、朝から窓を開けてベッドの布団を整えるのを手伝った。 夏の朝は涼しくて、風が青く透き通って見えるような気がした。 「うん。いい風だね。私、夏の朝って好き」 「私も」 優衣さんが朝ご飯を作る間に、私は水を汲んでベランダの植物たちに水やりをした。 水をやり終えると朝ご飯はあっという間に出来上がっていた。 今日の朝ご飯は、卵とキャベツとトマト、それからポテトサラダのサンドウィッチだった。 今日は、優衣さんが部活に顔を出さないといけないらしく、その間私は、図書室で絵本を読んだり、宿題をしたりして時間をつぶした。 図書室のおばさんや、本を借りに来た中学生のお兄さんやお姉さんたちは、私にとても優しくしてくれた。 お昼になって優衣さんが図書室に迎えに来てくれた。 「ゆずちゃんお勉強してたの?えらいね。おっ、懐かし。」 と、優衣さんは表紙にきれいなお城が描かれた絵本を手に取った。 お城の前には白銀の雪でできてるみたいな馬車とガラスの靴を履いた女の人が描いてあった。シンデレラだ。 優衣さんがページをめくると一瞬だけど絵が揺れて見えた。 「ゆずちゃんには、見えた?」 「うん。」 「ここからが本番だよ」 そう言って勢いよく開いたのは魔法使いのおばあさんがシンデレラの服に魔法をかける場面。 魔法使いのおばあさんが杖を振ると、杖の先から銀色に光る粉が溢れ出てきて、その粉はシンデレラの古くて汚れたドレスにくっついていく。 ドレスは見る間に雪のような真っ白に染まった。 そこに、魔法使いのおばあさんはブルーベリーの汁を一滴垂らした。 すると、真っ白だったドレスにどんどん青紫が広がっていった。 シンデレラがくるりとまわると裾の方は濃い青紫で上に行くにつれ色は薄くなっていき、胸元は淡い水色という綺麗なグラデーションができた。 シンデレラが恥ずかしそうに頬を赤らめたところで絵は止まる。 「どうだった?」 「すごい…。すごかった!ふわって青色が広がっていくとこがすっごく素敵だった。このページしか動かないの?」 「うーん、私は小さい頃からこのページ以外、動いてるところを見たことがないの。でも、ゆずちゃんになら見えるのかもしれないね。」 そう言ってちょっと悲しそうに笑った。 試しにページをめくって、続きを読んでみた。 私にも他のページは動いて見えなかった。 だけど、最後のページに描かれた、笑顔で王子さまと馬車に乗るシンデレラが一瞬だけウインクをしたように見えた。 「何か見えた?」 私は首を横に振る。嘘をついてしまった。 いつか、話すべきだろうか。 「そっかあ。やっぱり見えないのか。残念だな。だけど、安心したよ。ゆずちゃんには見えて私には見えなかったらちょっと悔しいからさ。」 そう言って、優衣さんはニカッと笑った。 やっぱり、ウインクのことは黙っておこうと思った。
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