彩斗と遊作

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彩斗と遊作

 子供の頃から礼儀正しく、「良い子」であると褒められていた。親の言いつけや学校の規則を守るだけで、優等生であるとされてきた。真面目に授業を受け良い成績をおさめるだけで、秀才だと持て囃された。  言われたことしか出来ない訳ではない。周りに特別扱いされたい訳でもない。  全てはこいつ、 「彩斗(あやと)! ごめん、寝坊して遅刻した!」  幼稚園からの幼馴染である、秋川遊作(ゆうさく)のためだ。 「大音量でアラームかけろって昨日から言ってただろ」 「かけてたんだけど、気付かなかった……」  癖毛か寝癖か分からない髪も、本人いわく「ちゃんとセットしてる」らしい。制服の着方もだらしなく、聞けば今朝も朝食を抜いてきたと言う。  遊作はその名の通り遊ぶこと、楽しいことが大好きで、勉強を含め面倒なことは何もしない。不良とまでは行かないが子供の頃からヤンチャな性格で、よく俺は子分にされていたっけ。  そんな遊作と付き合い出したのは、中学二年になってすぐの頃だった。俺は昔から遊作が好きだったけど、遊作の方は恋愛なんてそれまで一度もしたことがなかったらしい。  思春期の熱に浮かされて遊作の部屋で初めてキスをした、今から四年前の春。それから性欲の暴走が止まらなくなった俺達だけど、まだ一線は越えていない。俺の方がそれにストップをかけていた。  学生のうちは勉強に励みたかったからだ。遊作とは卒業後もずっと付き合っていく予定で、将来的には俺が養いたいと思っているからだ。  結婚はできないけれど、それに近いことはしたかった。男として愛する人を守り、一生幸せにしてやりたかった。  だから俺は良い大学へ行って、良い会社に就職するのだ。遊作に不自由な思いをさせないよう、また胸を張って俺と付き合えるよう、素行にも気を付けているのだ。  遊作の両親からも信頼されたい。付き合っていることは言っていないが、俺といれば間違いないと思ってもらいたい。そのためにも優等生であることを貫かなければならない。  遊作が行き当たりばったりで生きている分、俺がきちんと計画を立てていないと。 「学校間に合うかな?」 「間に合う。遊作が遅れて来るのも計算済みだ」 「さすが彩斗! 頭良い、俺の彼氏はやっぱ最強だ!」 「俺のことより自分の寝坊癖を、……」 「あ、奥の席空いてる。座ろう、彩斗」  バスに乗ればバスのことしか考えられなくなる、単純な遊作は可愛かった。  勉強は苦手でテストも赤点ばかりだし、楽しいことしかやらないし、つまらないことははっきり口にし、すぐに怒ったり笑ったりと忙しい遊作だけど。 「なあなあ、今日こそコンビニで限定焼きそばパン買う。昨日から楽しみにしてたんだ」 「それなら、尚更寝坊すべきじゃなかっただろ」 「そうだけど……」  俺は遊作に心底惚れていた。  遊作は頭は悪いが性格は良いのだ。素直で動物好きで好奇心旺盛な子供っぽいところは、幼稚園の頃から変わっていない。  純粋で愛らしい遊作が、俺は好きだった。  
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