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友人
2人には、共通の友人で坂本昭という男がいる。
彼は妻がいる既婚者で、彼らのよき理解者である。
故に
彼らが喧嘩を起こしたときは殆ど常に呼ばれ、仲介役を課せられる。
面倒くさいと放棄すればいいのだが、お人好しの彼は放っておけず来てしまうのだ。来るたびに、後悔するのをわかっていても。
「……で? 今日の喧嘩の原因は」
「コイツが俺に愛の言葉をくれない」
ムス、と膨れてぶっきらぼうに告げる創英に「ああやっぱりまたくだらなかった」と昭はスッと目を閉じ心の中で静かな涙を流した。
と、戒が何も言っていないのに創英がダン! と机を叩き「何でお前はいつもそういうことしか言わねぇんだよ!」と叫んだ。
創英の向かい側に座っている戒を見ると、腕を組みムスっとした顔でひたすら創英を睨み続けていた。間に挟まれるように2人がよく見える真ん中の位置に座っていた昭は、あれ戒の言葉聞き逃したか? と首を捻るが、また創英がバン! と机を叩き「だーかーら、俺はこんなにも愛しててちゃんっっと愛の言葉を吐いてんのに何でお前は言ってくんねーの! て俺は怒ってんだよバカバカバーカ! 言う必要ねぇとか言ってんじゃねーよアホクソボケ!」と小学生のような口調で口悪く戒を罵った。
本当に同い年かなぁ、コイツ……、と温かい目で創英を眺めつつ、昭は再び戒を見る。
言葉を発したどころか、口を開いた様子さえない戒。
だが、何かしらの会話は成立しているようで、創英が戒を見ながらバンバン机を叩き罵るのを止めない。
昭は「ん?」と目を細めて戒をよく観察する。
そこで、わかった。
びみょ~にだが、戒の瞳が表情を変えているのを。
でもそれはよーーく見ないとわからないレベルで、初対面の人が見れば「いやなんで喋られねぇのコイツ」と反応に困るような、そんな感じの表情だった。
つまり、創英は。
戒の目だけで言葉を受け取り話しているのだ
「……いや、お前ら言葉いらねぇじゃん」
思わずボソっと昭が突っ込むと、創英が「ああん!? 部外者が口出すんじゃねぇよクソったれが!」とドスの効いた声と鋭い睨みを向けてきた。
呼んだの誰だよ、という言葉は呑み込み「だってお前ら目だけで会話できてんじゃん」とすかさず突っ込んだ。
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