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朝食
2人の食事は、どちらかというと静かだ。
2人とも育ちがよく、創英は家事全般をこなす器用な男で、戒は生花と茶道の先生というそもそもの所作がきちんとしている。
食器の音を殆ど鳴らさず、黙々と綺麗に食すのだ。
大抵会話を切り出すのはお喋りが大好きな創英の方なのだが、今回は戒から口を開いた。
「あのさ」
「ん」
「時計」
「ん」
「壊した」
「ん」
いつもなら、創英は「そうかバカ野郎、まぁいいよ。俺が次買っといてやるからな」と優しく言葉を返すのだが、今回はちょっと意地悪をしたい気分になり、普段の戒がするようなぶっきらぼうな返事を返した。
さて、謝罪をするのか、それとも、申し訳なさそうな泣きそうな子犬のような目で俺を見るか、とあえて戒の方を見ず返事をしていた創英はちろりと視線を上げて戒の表情を伺った。
するとどうだろう、彼は構ってほしそうな寂しそうな表情でこちらを見て――――いるということは一切なく。
「そういうことだからよろしく」と言わんばかりの、まるでこちらの思惑はお見通しだと言わんばかりのニタリとした悪戯気な笑みを浮かべていた。
顔が整っているからこそ綺麗に見えるその余裕たっぷりの笑みにドギマギしないわけなどなく。
創英は真っ赤になった顔を隠すようにテーブルに突っ伏し「クソ負けました……」と呟いた。
それに対し、戒の返事は
「んっ」
と、満足そうな笑みであった。
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