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行ってらっしゃい〔戒視点〕
出勤はいつも、創英の方が早い。
家では膝だしの脛毛丸出しのハンパ丈ズボンに適当なよれよれTシャツに髭がちらほら、なスタイルが常に対し。
出勤する時は、髭はきれいに剃り軽くファンデーションをして毛穴を隠し、癖の強い茶髪はふわふわ感を出したマッシュヘアスタイルに整え、全ての無駄を隠すだけでなくキラキラした格好いい男に見せるパリッとした藍色のスーツを身に纏う。
そのbefore→afterの差に俺は毎朝「ああこれが詐欺か、すげぇなぁ」と心底感心している。
今日もそうで、見送りで玄関に立ちながら改めてその変貌した姿を眺めていた。
「……ああ?」
あんまりにもじっと見すぎたせいか、靴を履き終え振り返った創英の表情が不機嫌そうになり目つきが鋭くなった。
整った顔をしているせいで、凄むと中々人相が悪い。スーツを着てるからどこぞのヤのつくなんたらにも見えなくもない。
「じろじろ見んなバーカ」
んべ、と舌を出す創英。
その子どもっぽい仕草は今の姿に不釣り合いなのにどこか様になっているというか馴染んでいて、思わず笑いそうになったが笑ってはいけないと頑張った結果「んふっ」と変な声が出た。
「ああん?」
より一層目くじらを立てて怪訝な表情になる創英。
流石に何も言わず見送るのはダメそうだな、と判断した俺は「かわいくて、つい」と正直に言った。
途端、真ん丸に見開かれる創英の両目。
すると、段々と怒ったような機嫌を害したような人相に変わる創英の表情。
そして、親指でグッと自身を力強めに指して
「俺が、タチだろが!!」
と、主張した。
その言葉は真実だし否定する必要もない。
だが、とりあえず、俺は。
扉開け放って大声で言うことじゃねぇな
という意思表示に背後を「ん」と指差しておいた。
怪訝な表情が、指差す方に向いた瞬間。
首まで血の気がひき「びゃ!!」と悲鳴をあげ肩を恐怖で飛びあげていたのは中々面白かった。
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