第一話『花街に生きる』

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茶屋の看板娘が二人に気づき、近づいてきた。 お盆を前で抱え、にっこりと笑って言った。 「いらっしゃいませ、何になさいますか?」 巽は近くの椅子に座ると、にっこりとほほえみ返して言った。 「いつものを」 そしてチラリともう一人の男を見やる。 「お前さんは何にする?」 巽に言われて、指を三本立て、みたらし団子を三つ注文した。 椅子に座り、足を組む。 スラリと白くて細い、だけど程よく筋肉のついた足が裾から見える。 暫くその艶かしい足を眺めてから、巽が口を開いた。 「なぁ、利よ。そろそろ琥珀楼に移っては来ないか?」 それを聞いて、利と呼ばれた男が苦笑いを浮かべる。 「巽さん、逢う度にそうやって誘ってくれるのはありがたいが、いいかげん諦めてはくれないかね?」 丁重に断る利の手を、突然巽が手に取り優しく包み込んだ。 利が片眉を上げる。 「利、何度断られても私は諦めないよ。お前さんは、琥珀楼が男相手専門だからと乗り気じゃねぇかもしれないが…」 巽の言葉にくつくつと笑い、頭を左右に振った。 「違う、そうじゃないさね。」 異を唱えた利に巽が首を傾げる。 「なら、何だと言うのだ。」 利なら、きっと琥珀楼の頂点に上り詰める。 巽はそう信じて、諦めずに今日までずっと勧誘を続けてきたのだ。 納得のいく答えじゃなければ気持ちが修まらない。 利は睫毛の長い切れ長の目で巽を見つめ、言った。 「巽さん、あんたとは楼主と店子としての関係ではなく、こうして一対一の間柄でいたいからさ。」  
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