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コーラル国の王女、リゼ様が不治の病に罹った。もう、次の春を迎えられないのだ。
そんな記事が国中を震撼させた。
我々国民は悲しんだ。
王女は王様とお妃様の唯一の子供だ。
いつも王女は愛くるしい表情をみせ、国民から慕われていた。
それなのに。
まだ十三歳という年齢なのに。
なぜ、王女は病にかからなければならなかったのか。
魔法を使えて治して差し上げれたら。そう思うが魔法でも無力な時がある。
私はその不条理さを恨みたい。
「と、いうのが今日の新聞の投書欄に書かれていた記事です。リゼさま、聞いてます?」
幼馴染みのコークは横になっているリゼの顔を覗き込んだ。
「はいはい。みんなが私のことで嘆き悲しんでいるのよね。で、私が死んだらすぐに忘れる、と。」
「そんな。僕は死ぬまでリゼさまを忘れません」
コークは思い余って新聞を握りしめた。そして慌ててシワを伸ばす。
「お父様もお母様も私の事、どーでもいいって思ってるわ。考えてもみなさい。私がベットから起き上がれなくなってから一度も顔を見せないわ」
「きっと、お忙しいんですよ」
リゼは顔を振った。
「お母様が懐妊したからでしょ。まあ、国民にはまだ発表されてないけど」
ふて腐れたように、鋭い声で言った。
対してコークはリゼさまぁ、と情けない声を出した。それがリゼには少し面白く感じた。
「あんただけよ。会いに来てくれるのは。メイド達は食事と身体を拭く時くらいしか居ないもの」
「何を言ってるんですか。僕は唯一無二の幼馴染みですよ。それも生まれた時からの。国民には見せないタカビーな所も、人をこき使う所も。それ込みで僕はリゼさまと一緒に居たいと思っているんですから」
「あんたは一言多いのよ。あと、自惚れすぎ」
リゼは睨み、コークの頭を軽くグーで叩いた。
「に、しても来年の春って。主治医の見立てと同じ話ね。どこから漏れるのかしらね、この手の話は」
そう言ってチラリとコークを見る。
「内部事情を話したらどう言った罰が下されるのかしら。懲役? 島流し? それとも舌を引っこ抜かれるとか?」
「ぼ、僕は他言していませんよ」
顔を真っ赤にするコークにリゼは耐えきれずに吹き出した。そこでコークはからかわれている事に気付いた。
いつもからかわれている事に気付かない「鈍感コーク」それがリゼからのあだ名だった。
「あと三ヶ月か。今が冬だからもうすぐね」
コークは胸を痛めた。
「リゼさま、やりたい事はないですか? 僕、何でもします」
リゼはため息をついた。
「別に。幼い時から贅はつくしたもの。今更食べたい料理や着たい洋服、行きたいところなんてないわ」
コークは思案した。
「では、城下町などどうでしょう。以前、興味を示されていたではないですか」
リゼは笑った。
「あんたバカなの? もう、車椅子でも動くのが辛いのよ」
コークは目を伏せ、すみませんと小さな声で謝った。
リゼは明るい声を出した。
「あんたが見た町の様子を話してよ。私はそれが聞きたいわ」
「そ、そうですね。えっと町では今魔法具が流行っていて……」
リゼは首を傾げた。
「魔法具って一部の貴族しか使えないものじゃないの?」
「それが最近、ものすごく頑張れば手が届くぐらいの物が売っていて」
「例えばどんな物?」
「ずっと夜灯るランプにインクが不要のペン、いつでも火を起こせる魔法陣のシートに……」
「なんか地味ね」
「けれど、かなり高いんですよ。ランプは庶民の月収の三ヶ月分とか。でも、便利だから売れているそうです。ランプの場合はもう油代のことも気にしなくてよくなりますしね」
ふうん、とリゼは相槌を打った。
「リゼさまの部屋には魔法具が沢山ありますね。綺麗な音楽が鳴る箱に部屋中に花の香りがする置物、部屋を暖かく保つカーテン。自らベットメイキングしてくれる毛布」
「この国はそういった物に魔法をかけるのが特産だからね」
「すごい技術ですよね」
「上級魔法使いが一つひとつ魔法をかけているのよ」
「リゼさまは会われた事はありますか?」
「一人だけね。偏屈な老婆だったわ」
「リゼさまが偏屈というのなら、相当偏屈なんですね」
リゼはコークを睨んだ。そんなリゼにコークは気付かずに話を続ける。
「どこに住んでいるのでしょう。王宮の敷地内、とか?」
「森の奥よ。ほら、ジールの森。あそこに住んでいるのよ」
「ジールの森かあ。薄気味悪い所ですね」
「怖がりのあんたには絶対に近づけないわ」
「ぼ、僕はそんなに弱虫じゃありません」
「どーだか。昔夜の王宮で迷子になって泣きべそで見つかったじゃない」
「いつの話ですか。あれは五歳くらいの時で、今は違いますよ」
必死に否定するコーク。
リゼはふふふと笑って目を閉じた。
「少し疲れたから寝るわ。会いに来てくれてありがとう」
コークは毛布をかけ直した。
「おやすみなさい、リゼさま。また来ますね」
部屋を出たコークは息を吐いた。豪華絢爛な部屋にひとりぼっちのリゼ。それが痛々しくてコークの胸を締め付けた。
胸がただただ痛かった。
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