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「んで、あたしのところに相談するわけぇ?」
領地 華子(りょうち はなこ)はため息をついた。
彼女は太郎の幼馴染であり、親友である。
この穏やかで情に厚い少年を『どうしようもない甘ちゃん』だと揶揄するこの少女は、少しばかり世の中を斜めからみるきらいがあった。
「アンタって本当にどうしようもない甘ちゃんだわねぇ」
もはや口癖になっている台詞を吐く。
「そうかなぁ。でも僕はさ……」
「『みんなが幸せになる方法で』でしょ? そういう所が甘っちょろくて反吐がでるわ」
華子は吐き捨てるように言って、益々顔を歪めた。
「アンタは裏切られたのよ? アンタの父親も。浮気不倫がこの世に溢れてるといえど、あたしの親がなんて考えたら……殺すかもしれない。そうでなくても軽蔑するわ、間違いなく」
彼女の言葉に、少し考えながら彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「うーん。確かに吃驚したし悲しかったし。最初はすごく怒ったけどね。でも大切なのは過ちをどう正すかってことじゃあないかなって」
「……だから甘ちゃんって言われんのよっ!」
苛々と髪をかきあげた華子は、ふと考え込むように黙った。
太郎の方は叱られた犬のような顔で見守る。
「チッ……仕方ないわね。幼馴染の悩み、一緒に悩んでやるわよ」
「ありがとう! ほんとに華子は優しいね!」
「アンタにそれ言われると何故かすごくムカつくわね。……ま、いいわ。母親からのアプローチが難しいなら、『相手』からよ」
「相手?」
「そう」
彼女はその大きくアーモンド型の目を意地悪く細めて言った。
「その家庭教師のこと、調べてきなさい。そして逐一あたしに報告すること。分かったわね」
「それはいいけど……なんで?」
「ふふん、情報っていうのは時にどんな武器より勝るのよ。これも全て家族の為よ。みんなを幸せにするんでしょ?」
それはまるで悪魔の囁きのようだったのは、きっと彼女の笑みが妙に歪んでいたからだろう。
しかしこの単純で性善説の塊のような少年にはそれが分からない。
「うん! ありがとう、僕がんばってみるよ」
太郎は真っ直ぐな瞳で決意に胸を燃やした。
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