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「あのさァ、太郎君?」
「はい!」
こりゃあダメだ。お手上げだ。分かったよ。素直に負けを認める。
オレは努めて冷静なトーンで名前を呼んだ。
飼い主に呼ばれた犬みてぇな間抜け面して、問題集から顔を上げた彼を観察する。
なんか最近妙に垢抜けてねぇか、こいつ。もっと地味で野暮ったいガキだっただろう。
さては女でもできたな?
「あー……最近雰囲気変わった、よな」
(最初は少し褒めてみるか)
下手に挑発してぶちのめされたら適わない。
「えっ、わかりますか?」
嬉しそうな顔しやがって。こいつはつくづく犬っぽいなァ。
「そりゃあ分かるよ。同じ男だしな。うん、なんかいい感じだよ」
「いい感じ、かぁ。ははは……先生に褒めてもらうなんて、すごく嬉しいなぁ」
おぉ、思ったより効果あったな。照れたように笑っている。
やっぱり中身は単純思考のガキだな。チョロいもんだ。
「もしかして、恋人でも出来たのかい?」
このまま恋バナにシフトして、おだてつつさりげなく打ち明けて謝るか。
男と恋の話なんて趣味じゃあないが仕方ない。
幸い、あれから関係を持っていないしな。このままバイト変えるなりしてフェードアウトだ。
「恋人……」
突然、テンションガタ落ちって顔で俯いてしまった。
(ん? なんだ地雷か? 最近振られたとかいうパターンか)
ハラハラして見守っていると、彼は顔を赤らめて一言。
「まだ片思い、なんです」
「か、片思いかァ」
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