青少年は暴走す

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太郎がゆっくりとオレの方に向き直り、また少し距離を詰めたのを肌で感じる。 (ま、まさかここで殴られることはないだろうな) 殴るならせめて優しくしてくれ。いや、もう痛くてもいい。一瞬で終わらせて欲しい。 「分かりました。僕、嬉しいです」 太郎の声には本当に嬉しさが滲んでいた。 「先生がちゃんと過ちを認めて正そうとしてくれている……これでまず一安心です」 「お、おう。でも責任はとるよ。慰謝料? とかは難しいけど、オレはできるだけ早くバイト辞める」 「……あ?」 「!?」 突然地を這うような低い声が隣から聞こえて、思わずそっちを見上げる。 そこには笑顔の彼がいた。しかしその目は笑っていない。それどころかひどく冷たく怒りに満ちていた。 「何言ってんですか? 辞める? 本気ですか?」 「えっ、え、あ、あの……」 「責任なんていりません。でもそれじゃあ先生の気が済まないでしょう……僕が罰を与えましょうか」 「ば、罰!?」 何言ってんだこいつ。さすがにそれは図に乗り過ぎってもんだぜ。 僕は怒りのあまり、彼の胸ぐらを掴んだ。そして思い切りガンつける。 「罰だと? どういう事だ」 結局、父親に言うとかなんとかで脅すつもりか。 怒りに拳を固める。 「こういう事です」 「は? うわぁッ……! っん、ぐッ……んん……」 それは一瞬だった。一気に体重をかけられたオレは、そのまま椅子ごと倒れ込む。 床に叩きつける前に抱き込まれ、同時に唇が重なった。 「ぅ、ふ……んんッ、ん、……」 お世辞にも上手いと言えないキスだった。 ただ喰らい尽くそうという乱暴で余裕の欠けらも無いキス。 「……ッハァ、ぁ……この、ガキ……ッ!」 「先生には、愛というモノを教えてあげますよ」 そう言った彼の笑顔。それはとても無垢で明るい。しかし故に垣間見得る残酷な色を瞳に感じ取ったオレは、情けないことに完全に腰が抜けてしまった。
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