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青少年の悩み
―――丘山田 太郎(おかやまだ たろう)少年は悩んでいた。
彼の悩みについて語る前に彼自身について。
太郎は高校一年生。今年に入って急激な身体の成長に成長痛を感じる、そんなお年頃だ。
その性格は穏やかではあるが純粋にて真っ直ぐ。常に正義感に燃える、そんな今どき珍しい日本男子である。
彼の悩みはその真っ直ぐな正義感から来るものだった。
「ただいま」
太郎はそう呟くと玄関のドアを必要以上に大きな音をさせて開けた。
「あ、あら。帰ってきたのね……おかえり」
「ただいま、母さん」
玄関に慌ただしく出てきたのは彼の母親、佳代(かよ)である。
しかしその様子は少しばかり不審なものがあった。
顔は薔薇色に上気して汗ばんですらいる。目の端に妙な色気と気だるさを残して、罪悪感の塊のような笑みを浮かべていた。
「……」
少年はそんな母親の顔をみて内心呟くのだ。
(また彼と居たのか、と)
その『彼』はリビングのソファに既に座って、彼を待っている。
「やぁ。おかえりなさい」
爽やかな笑みを貼り付けたその男。
茶久 直樹(さく なおき)、太郎少年の家庭教師である。
……太郎が彼と母親の関係に気がついたのは、今月に入ってからだ。
ある日、早めに帰宅した彼は家の前で母親と茶久が話をしているのを目にした。
その雰囲気、もっと言えば母親の様子に違和感を覚えたのだ。
頬を染めてまるで少女のよう。それは学校で恋バナしたり男子に告白しにいく同級生達と同じ種類の表情だった。
母さんは恋をしている、そう感じた瞬間。彼の心は複数の感情に支配される。
裏切り、怒り、絶望……そして慈愛。
彼の善良で温厚、優しさに溢れる気質によるものだろう。
彼は許したのだ。
夫がいる身でありながら、若い男に恋をしてさらに肉体関係まで結んでいる母親を。
……そして冒頭の言葉に戻る。
彼は悩んでいた。
母親を正しい道に戻すにはどうすればいいか。
無論、直接訴える事も考えたし父親に打ち明けることも検討した。
しかしそれはともすれば家庭を、夫婦を崩壊させることに直結しないかと踏みとどまったのだ
両親を傷付けず、全て元通りに解決する方法はないものか……と。
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