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青年の意地
オレ、茶久 直樹(さく なおき)の人柄を一言で言い表すならば『世渡り上手』だと以前誰かに言われた。
自慢じゃないが要領の良さと外面の良さはなかなかのものだと思う。
おかげで大学入学までそれなりに人生を楽しんできた。
オレのその性質は特に女に関して発揮される。
女友達もまぁまぁいて、彼女達は漏れなくたまにセックスをする『気軽な』友達。
1人の彼女を作るのは性にあわないからな。
……そんなオレも過ちは犯す。
家庭教師をしている家の人妻、佳代さんとヤっちまった。
簡単に言えば偶然に偶然が重なって、丘山田家に二人きりとなった時に……うん、まぁそういうこと。
まさに『魔が差した』としか言えない状態だが、それでもオレは1度で終わらせることはできなかった。
理由は単純。
手軽だったからだ。クズその物の思考だが、他にも同年代の女性ばかりと付き合ってきたオレにとって、結構具合が良かったんだよなァ。
でも最近ちょっとやばくなってきた。
女の方が本気になってきている気がする。
こういうモノは遊びでなきゃ。
少し下卑ているが趣味でやるスポーツのように。
……まぁそれだけじゃあないんだけどな。
❁✿✾ ✾✿❁︎
「……太郎君? 」
先程からジッとこちらを見つめる二つの目に、オレはたじろいだ。
「はい、先生」
礼儀正しいこの高校生。柔和な表情に似合わず、身長はもうオレを超えている。
ガタイもそれなりに良い。身体だけ見ると本当に高校生かよっていつも思う。
素直で真面目な生徒、実は佳代さんの息子。
罪悪感などは最初からスパイス程度にしかなかったけどさ。
「ちょっとその……近い、かな」
そう近い!
オレの悩みは、この少年の距離感の近さだ。
最近やたらと身体を寄せて、こうやってジッとオレを見つめてくる。
スキンシップも過剰。この前なんていきなり手にキスされて、思わず変な悲鳴まであげちまった。
「そうですか? ……あ、先生の瞳って少し色が明るくありませんか。綺麗だなぁ」
「あ、あの太郎君?」
(こ、こいつ全然聞いてねぇ……!)
どんどん距離を詰めていく。まさに互いの瞳の色が詳細に分かるレベルまで。
「ねぇ先生……いやもう名前で呼んでもいいですか?」
「良くねぇよっ、あとほんと近い。ちょっと離れろって!」
手で押し返すと大人しく離れてくれた。
オレはこの生徒が全く分からなくなっていた。
(この前まで普通の良い子だったよな!? 成績も順調に上がってきてるし、素直で……)
まさかあの事を知っていて、嫌がらせをしようっていうのか。
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