7 憂い

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 一瞬だった。  何が起きたか考えるよりも先に、気づけば侑李は真貴と水昴と共に神明の屋敷の庭の淵に立っていた。 「すごいわ!本当に一瞬で」  侑李は手を叩いてぴょんぴょん跳ねながら喜んでいる。 「では、真貴様私はこれで」 「うん。今日は楽しかった。ありがとうな」  真貴と視線を交わし水昴は池の中へと姿を消した。  神明の屋敷の簀子では、仁が茂澄と志貴と共に酒を呑んでいる。  もちろん、仁がふたりを強制的に付き合わせているのだろう。 「俺の家族だ。紹介するよ」 「うんっ」  真貴が侑李を伴い簀子へ歩み寄ると、茂澄が手にしていた猪口を落とし唖然としていた。 「まぁ、茂澄に志貴じゃない。真貴はふたりの家族だったのね!」  無邪気に笑う侑李に、志貴も目を丸くしている。 「ななななぜ、侑李様がここに・・・・」  それ以上言葉も出ないとばかりに、茂澄は口をぱくぱくとまるで鯉の様だ。 「えっとね、出かけた先で真貴に会ったの。楽しかったわぁ。私が無理言ってここに連れてきて貰ったのよ」 「連れてきてもらったのよって・・・・侑李様、このままでは兄上がかどわかしの罪で罰せられてしまいます!」  志貴が膝立ちになり、青い顔で言った。 「まぁまぁ、いいじゃねぇか。侑李ちゃんって言ったか?せっかく来たんだ。一緒に呑むか!」 「えぇ、いただくわ」  仁はまるで佳祐や愛斗が遊びにきたのと同じように、侑李を迎えると渡した猪口に酒を注いだ。  侑李はそれを優雅な所作で飲み干すと、少し朱に染まった頬でふわりと笑う。 「美味しいっ、もう一杯頂けるかしら」 「侑李ちゃん、いけるクチだねぇ。もちろんだ」  仁は再び侑李の猪口に酒を注いだ。 「真貴は呑まないの?」 「俺はっ・・・・いい」  ぶっきらぼうに答えた真貴の横で仁が喉の奥で笑う。 「侑李ちゃんこいつね、この前一杯呑んでぶっ倒れたんだよ」 「まぁっ」  真貴は赤面して、口を尖らせ仁を睨んだ。 「べっ別に酒なんて呑めなくても全然いいし!」  そう言った真貴の隣で侑李がふふっと笑う。 「大丈夫。少しづつ慣らしていけばいいのよ」  そう言って新しい猪口に酒を注いで真貴に渡すと、真貴はまるで子猫のように舌を出して酒を舐めた。その様子がおかしくて侑李は声をたてて笑った。  鈴が転がるようなその笑い声に、仁はもちろん慌てていた志貴と茂澄にも笑みが零れた。  とはいえ、宮廷の姫君がこんなところにいていいはずがない。このままでは神明家の全員が罰せられかねない。  茂澄は立ち上がると、ひとり屋敷をでた。  向かった先は宮廷だったのだが、案の定、宮廷では騒ぎになっている。伊勢参りの帰りに逸れてしまった侑李姫が行方知れずになったのだ。  茂澄はあちゃーっと額に手を当てた。  せわしなく屋敷を行き来する文官の中から立花を見つけると、茂澄は走り寄った。 「立花様っ」 「ぉお茂澄か!よいところへ。大変なのだ。侑李様が行方知れずになってしまったのだ。茂澄よ、居場所を占うことはできるか!」 「あ~、それがですね・・・えっとですね、占うまでもなく・・・」  茂澄は辺りを警戒すると、立花に耳打ちをした」 「なんとっ!」  立花は驚きに声を上げ、絶句した。 「兎に角、いらして頂きたいのです!」  茂澄は固まったままの立花を引きずり、急ぎ神明の屋敷に戻った。  
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