7 憂い

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 神明家の屋敷の廊下を慌ただしい足音が響く。 「侑李様ーーーーーっ!」  立花は侑李の元へ倒れこむ様に立花がひれ伏した。 「あら、立花じゃない」 「侑李様っ、宮廷では大変な騒ぎになっておりますぞっ。さぁ、私と共に戻りましょう」 「いやっ」 「は?」  立花はぽかんとして、身を起こした。 「いやよ!私、戻らないから!それよりほら、立花も呑みなさいよ」  そう言って侑李は立花に酒の入った猪口を持たせた。 「いやしかし侑李さ____] 立花の言葉を最後まで聞くことなく、侑李は立花の猪口を持った手を口に押し付けた。  立花はごくりと喉を立てて酒を呑み干すと、大きなため息をついた。 「まぁおっさん、諦めろって。こいつ一度言い出したら聞かねぇんだもん」 「そうなのだ・・・、侑李様が意外に頑固なところが___」  がっくりと肩を落とす立花の猪口に仁が酒を注いだ。 「まぁそう落ち込まないで。まずは酒を呑みながら策でも考えましょう」 「それしかないようだな」  立花は、楽しそうにはしゃぐ侑李を見て、猪口に口をつけると再びため息をついた。  しかし数刻後には、神明の屋敷の簀子からは立花の上機嫌な笑い声が響いていた。  侑李を連れ戻しに来たことなどすっかり忘れてしまったかのようである。 「しかし、宮廷の姫君がこうも気さくな方であったとは驚きました」 「いやいや、茂澄殿。そうではない。侑李様が特別なのだ」 「やっぱりな」  頭の後ろで両手を組んだ真貴が、白い歯を見せて笑った。 「宮廷などと言えば一見華やかだが、政権争いに権力闘争、派閥と気が休まる時などないのだ。帝と皇后の間にはまだ男児がおらぬゆえ、今は側室である恵泉(けいせん)妃のご子息、蘭翔様と、月長(げっちょう)妃のご子息、蘭萄様が王太子候補であるのだが、それぞれを推す大臣達の争いは絶えぬ。嘆かわしいことだ」  立花の言葉に、侑李も笑みをけし俯いた。 「天真爛漫な侑李様が、宮廷を飛び出す気持ちも理解できるのだがな」  そう言って自嘲気味に笑った立花に真貴が非難の視線を向ける。 「あーぁ、おっさんのせいで侑李がしょぼくれちまったじゃねぇか」 「えっ、あぁこれは侑李様、申し訳ありません」  慌てる立花の背中を真貴はパンパン叩くと、笑った。 「まぁさ、俺が今までいたとこでもあったぜ。政治を担う奴らの汚職や賄賂、不思議と金のあるやつってのはもっと金を欲しがるし、権力のあるやつはもっと権力を欲しがるよな。それは国が変わろうが同じなんだな」 「人間ってのは、よくよく業が深いってわけだ。ってことで、酒を呑む俺達は更に酒が欲しいっと」  そう言って、仁は立花と自らの猪口に酒を注いだ。  いつまでも呑み続ける仁と立花に付き合っていられるわけもなく、真貴、志貴、茂澄そして侑李は一足先に休むことにしたが、その後仁と立花の小さな宴は夜が明けるまで続いた。
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