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しまったと思った。
言うのが早すぎたか。
しかし、何度もこの神田の神明家に訪れて、馴染む自信などない。
出来れば早く左大臣に引き合わせ、あとは勝手にやってもらいたいというのが、楽亜の本心であるがまずは真貴を宮廷に誘い出さねば始まらない。
「あのっ、無理ならいいのですが・・・、よかったら色々ご案内とかできたらなって・・・・」
言葉は尻すぼみになった。
「楽亜殿、もしも兄上が宮中へ赴くことがあれば私がお連れします」
楽亜と志貴の視線だけがぶつかり、しばしの沈黙が流れた。普段は穏やかな志貴が、ここまで敵意を露わにするのは珍しい。
張りつめた空気を割るように、真貴がいそいそと間に入ってきた。
「あー、悪りぃ、俺ああいうとこ苦手でさ。今回も帝の命とかで絶対に断れないって言うから行っただけなんだ。それに志貴が言うように、なにかあれば志貴も茂澄もいるからさ。気ぃ使ってくれてありがとな」
「そ・・・そうですか・・・」
父上に叱られる___
一度はひいたものの、このままでは父親になんと申し開きができようか。
しかし、ここまではっきりと断られては今日のところは引くしかなかった。
「では、これにて失礼いたします」
門まで茂澄に送られたような気がしたが、よく覚えていなかった。
牛車が用意されていたが、断り歩いて戻ることにしたのはなぜだったのだろうか。宮廷での噂はすぐに町に広がった。都の民がみんな真貴を褒めたたえているとうわさで聞いた。自分がこうして都を歩いても、誰も自分には目もくれないのに戻ってきてたった数日の真貴をなぜ祭り上げるのか理解ができない。
「そうか。あいつのせいだ。私は・・・真貴にはめられたのだ・・・」
楽亜は今日宮廷で起きた事を反芻していた。
「確かにあいつの幻術は優れていた。しかし、あれは本当に幻術か?もしかしたら私と同じように、予め何かを仕込んでおいたのでは・・・・。そうか、それなら、あれだけできたことも納得できる!とにかく、私は真貴を宮廷に誘い出さねばならないな。何かいい策はないか・・・・。ちょっと待てよ、今日真貴は帝に呼ばれたから宮廷に行ったと言った。それならば、再び断れない状況を作ればいいだけではないか!」
楽亜は、嬉しそうにパンっと手を打つと今までとは打って変わって足取りも軽く帰路についたのであった。
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