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「ボーイズなんだよ? 二十六歳の男が所属してていいグループじゃないでしょ」 「でも……」  どんなグループ名でも、年齢が高くても、世間にはアイドルとして活躍している人がいる。 「もちろん、人気があれば残留できるんだよ。けど、僕みたいに人気がないやつは契約が更新されなくなるんだ。今日、事務所で言われちゃった。九月で契約を終了させたいって」 「そうなのか……」  それが人気商売なのだろう。こんなにかわいくてもだめなのか、と残念に思う。 「いつからアイドルになったんだ?」 「えっとね、十六歳からだよ。オーディションに合格して、人気アイドル目指してがんばってたんだけど……ずっとバックダンサーの仕事ばかりだったんだ」  ということは、十年間も日の目を見ることがなかったのか。 「人気が出てソロでCDデビューした同期もいるのに、僕の頭上にはいつまで経っても晴れない雨雲がかかってた。ステージの真ん中でライトを浴びて歌ってるメンバーを、羨ましく思いながら見てたよ。向こうは花火なのに、こっちは雨が降ってる」  目の前の景色と、ステージの端で悔しい思いをしている雅の姿がリンクする。 「切ないな……。俺はアイドルのことはよくわからないけど、気持ちは想像できるよ」  エンターテインメントの世界は弱肉強食。小さな劇団でも明暗がある。うまい役者は毎回メインキャストに抜擢されるが、下手な役者はいつも端役しかもらえない。  雅がひとつ息をつき、パッと明るい笑顔に切り替えた。 「誰かにこんな弱音吐いたの、初めてかも。なんでかな、暁翔になら喋ってもいい気がしちゃった。この際だから暁翔も弱音とか悩み、なんか言ってよ。僕一人だとかっこ悪い」 「悩み? そうだなぁ」  胸の前で腕組みをして考える。雅の慰めになるかはわからないが、暁翔も似たような境遇にあった。 「俺は……このまま劇団で演出を続けていいものか、悩んでるよ」  小さなアマチュア劇団というのは大抵赤字で、安い稽古場を探したり、衣装やセットを簡素にしたりと、費用を抑える努力をしている。  プロではないし、趣味なのだから仕方ない。そういうものだと思ってやってきた。  しかし、自分にもっと演出家としての才能があれば、集客を増やして黒字にできるかもしれない。人気の劇団になれるかもしれない。そんなジレンマがあった。 「芝居は好きだし、楽しいんだけどさ。何年経っても赤字だから、さすがに団員に申し訳ないなって」  舞台の出来映えは演出家だけの力によるものではないけれど、演出家の責任が重いのは確かだ。 「暁翔も色々あるんだね。好きなことを続けるって、難しいね……」 「だな……」  二人で雨の向こうの花火を見つめる。  暁翔は隣に立つ雅が、ちょっとした仲間のように思えた。努力しても抜け出せない雨の中にいる、遠くの花火を羨むしかできない仲間同士。長い間エンターテイメントの日陰にいて、光が当たらないまま消えていく。
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