2

8/23
前へ
/96ページ
次へ
 八月最後の日曜日。  今日は雅にキラボのバックダンサーの仕事が入っているため、堂島家に来るのは夜の予定である。ちょうど劇団仲間の京介から、次の芝居について打ち合わせをしようと連絡があったので、日中は京介を自宅に招いた。 『劇団リアル』の主宰者である松本京介は、大学生の頃に堂島家に居候させていた、気心の知れた男だ。イケメンと言えるほど男前ではないが、彫りの深い派手な顔立ちで、がっちりした筋肉質な体格をしている。役者としての演技力もあって脚本も書ける、マルチな人間だった。  夕刻、京介が舞台映えする大きな声で「暑い! 暁翔、冷茶くれへん?」と言いながら堂島家にドカドカと入ってきた。京介は基本的に出身地の関西弁で喋る。標準語は気をつかう相手にだけ使うらしい。  暁翔は京介の騒がしさにうんざりしつつも、冷蔵庫から冷茶のボトルを取り出した。 「相変わらずうるさいな。とりあえず座れよ」 「おう! ……おうっ!?」  リビングを見るなり、京介が素っ頓狂な声を上げた。 「なんやこの部屋! かわいい! 前に来たときとちゃう!」 「そうか? 大掃除をしただけだぞ」 「掃除ぃ!?」  京介が目力のある目をギョロギョロと動かした。  リビングの棚にはアロマキャンドルが並べられ、ソファの上には丸くてかわいいクッションが鎮座している。観葉植物もお洒落な陶器の鉢に植え替えた。テーブルの上の花瓶にはピンク色のガーベラの花が。キッチンにはペアの湯呑みやマグカップも。いずれも女子力が高い、花柄や水玉模様のデザインである。  全て雅の好みだ。二人で買い物に出かけたときに少しずつ買い足し、次第にちょっとしたカフェのような雰囲気のリビングになった。 「これは……女やな! 女ができたんやな! それならそうと言えや! 黙っとるなんて水臭いぞ!」 「できてないよ。ちょっと趣味が変わっただけだって」
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

346人が本棚に入れています
本棚に追加