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 主宰者である彼が参加しなかったことなど、今まで一度もない。 「演出家の西園寺先生、知っとるよな」 「ああ」  演劇界では有名な『西園寺企画』という劇団を主宰している西園寺は、テレビでも活躍が報じられるような演出家の男だ。初老の年齢だが精力的に活動している。 「その西園寺先生がな、次の芝居で俺の脚本を使いたいって言うてきたんや。すごいやろ!」  演劇界の重鎮が小さな劇団の脚本家に声をかけるなんて、奇跡的なことである。 「ほんとかよ!」 「ほんまやねん。この前の夏公演を、こっそり観に来てくれとったんやって。ほんで俺の脚本を気に入ってくれたらしい!」  京介は興奮で鼻息を荒くした。  暁翔も体が熱くなる。夢のような話だ。しかし京介が先ほど吐いた、盛大な溜息が気になる。 「すごいけど……何か問題があるんじゃないのか?」  尋ねた途端、京介が顔を強ばらせ、ガバッと頭を下げた。 「すまん! 実はそうなんや。西園寺企画の舞台と、リアルの冬公演の開催時期が近いねん。そやからリアルの脚本は書けへん。おまけに、西園寺企画にちょい役として出演する約束をしてもうた。ちゅうわけでリアルの稽古にも出れへん。冬公演は完全に不参加にさせてほしい」 「不参加って……」  二つの劇団の公演時期が被っている。京介としては当然、『西園寺企画』を優先するだろう。となれば『劇団リアル』に関わる時間はない。  しかし『劇団リアル』は京介が脚本を書き、彼がメインキャストを演じる、松本京介が主体の劇団である。観客は京介の出演を楽しみにしている。西園寺からの依頼は喜ばしい話だけれど、彼を抜きにして公演が成り立つとは思えない。
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