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「冬公演の脚本は既成のものを探してきた。この脚本で、暁翔に演出を頼みたい。暁翔なら面白い舞台を作れると思う」 「おいおい、京介不在でも冬公演をやれって言うのか? もう休演でいいんじゃないのか?」  京介の顔が曇る。 「梨乃が……冬公演でリアルをやめたいって言うてる。来年の春から仕事で神戸に転勤するんやって。しばらく戻って来られへんらしい」  劇団を立ち上げた当初から一緒に頑張ってきた田丸(たまる)梨乃(りの)。長年、苦楽をともにしてきた仲間がいなくなるなんて。少なからずショックを受ける。 「梨乃……やめるのか」  美人女優の彼女には、熱心なファンがついている。ファンはきっと残念がるだろう。 「暁翔には負担と迷惑をかけるけど、よろしゅう頼む! 梨乃に、最後の舞台を作ってやってほしいねん!」  京介がテーブルに、額をこすりつけるように頭を下げた。  暁翔は嘆息した。 「京介がいないんじゃ実質、俺が代表みたいになるよな。プレッシャーでかいよ」 「すまん……」 「今まで以上の赤字になったらどうしようって、正直不安だ」 「すまーんっ!」  張りのある声が、一階全体に響く。 「まいったな……。でも、京介にとって西園寺企画に脚本を提供するのは、大きなチャンスだよな」 「おう。今、死にもの狂いで書いとる」  京介は芝居でプロになる夢を持って関西から上京した。就職はせず、フリーターをしながら芝居に打ち込んでいる。今は彼女の家に居候しており、いわゆるヒモだ。脚本家として、もしくは役者としてなんとか独り立ちしたい、いずれは彼女と結婚したいと日頃から言っている。 『西園寺企画』の脚本を書けば夢に一歩近づくだろう。友達として、彼に協力したい気持ちはある。それに退団する梨乃にも、最後の舞台を用意してあげたい。 「京介が選んだ脚本、ほんとに面白いんだろうな」
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