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 料理をする雅を手伝いつつ、暁翔は京介について簡単に説明した。劇団の主宰者で役者だと言うと、雅が「なんだかすごく、存在感のある人だったね」と言った。  そうなのだ。京介はイケメンではないけれど、舞台に立つと人目を引く。暁翔にはない役者としての魅力を持っている。脚本を書く才能も。  食事中、雅が二階の物置部屋にある芝居の衣装の中に、浴衣があったと言うので、せっかくだから浴衣を着て祭りに行こうという話になった。  食後、物置部屋を捜索して見つけたのは、男物と女物の浴衣が一枚ずつ。  暁翔は「俺は洋服でいいから」と言って雅に男物を渡した。だが「僕が女物を着るね」と言って返される。 「おいおい、女装する気か?」 「女装って面白そうだから、一回やってみたかったんだ。着つけ方、ネットで調べてみようよ」  雅が楽しそうなので暁翔もやる気になり、動画サイトを検索した。メイクを指南する動画を参考にしながら舞台用の化粧品で雅にメイクをする。物置部屋からセミロングのウイッグも探し出して頭に被せた。  京介に対して学生気分が抜けないと言ったが、自分もそうだなと思いつつ、暁翔はハロウィンの仮装をするノリで雅の女装を手伝った。今は劇団の不安を忘れ、雅と楽しい時間を過ごしたい。  淡いピンク色の浴衣を着て髪にリボンを結んだ雅は、飛び切りかわいい女の子に変身した。キラキラと輝く女子大生のようである。  暁翔は男物の浴衣を着た。二人で悪戯をしかける子どものように、わくわくしながら商店街の祭りに向かう。 「雅、すっごくかわいいな!」 「ほんと? 男だってわかんない?」 「喋らなきゃ絶対わからないと思う。かわいくて綺麗な女の子だよ」 「やった、うまく化けられた!」  女装姿の雅になら「かわいい」と平気で言える。暁翔はここぞとばかりに雅を褒めちぎった。雅は「言い過ぎだよー」と照れたり、笑ったり。  団地の坂道を下って商店街にさしかかると、弁当屋『花江』の小さな店構えが見えた。 「この格好で、雅の家に行ってみる?」
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