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二人は夏の終わりを告げる、小さな祭りをそぞろ歩いた。たこ焼きやりんご飴を売っている出店を眺め、金魚すくいではしゃぐ子どもに目を細める。打ち上げ花火は上がらないけれど、商店街のこぢんまりとした祭りも風情があっていいものだ。
暁翔が綿飴を買って雅に渡すと「ありがとー! 食べたかったんだ」と、彼は頬をピンク色に染めた。弾ける笑顔に胸がときめく。まるでデートをしているみたいで楽しい。
連なる出店の先に風鈴を売っている店を見つけ、暁翔は足を向けた。リビングに風鈴を吊したい。雅に選んでもらおうと思い振り返る。
すると隣にいるはずの雅の姿がなかった。慌てて辺りを見回す。
雑踏の中、雅はニヤニヤと笑う大学生らしき男の二人組に囲まれていた。困ったように、綿飴で自分の顔を隠している。どうやら腕を掴まれているらしい。男達から逃げようとするが、身動きが取れないでいる。
(雅!?)
暁翔は急いで人を掻き分け、彼の元へ向かった。
「お姉さんかわいいねぇ。今から俺達と一緒に、カラオケに行かない?」
「ねぇねぇ、何とか言ってよ」
男達は雅をナンパしていた。雅は顔を隠して黙ったまま、懸命に首を横に振っている。
「ねぇ、なんで喋ってくれないの?」
「喋ってくれないと、この腕、離してあげないよ?」
声を出せばすぐに男だとばれるだろう。いくら声音が高めでも、さすがにごまかせない。ばれたらどんな罵声を浴びせられるかわからない。
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