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「待てよ!」
慌てて追いかける。女物の浴衣を着ている雅より、男物の暁翔のほうが歩幅が広い。すぐに追いつき、暁翔は雅の手を取った。
「またさっきみたいな男に絡まれたら、困るもんな」
雅の右手を、左手で握る。
「……いいの?」
頷き、緊張しながら、握る手にぎゅっと力を込めた。鼓動がドクドクと速くなる。
「帰ろうか」
頬を赤らめた雅が、コクンと頷いた。
そのままゆっくりと商店街を歩き、団地の坂道を登った。
繋いだ手が熱い。嬉しいような、気恥ずかしいような、複雑な感情が顔を紅潮させる。
雅も緊張しているようで、互いに目を合わさずに黙々と歩いた。
人と手を繋ぐだけでこれほど緊張するのは、生まれて初めてだ。俺は中学生かよ、と暁翔は脳内で突っ込んだ。
自宅の門扉を開けて庭を横切り、玄関の引き戸を開ける。そろそろ手を離すのが自然だろう。しかし離すのが勿体ない気がして戸惑う。
すると雅がウィッグをガバッと取った。
「ウィッグって暑い! 女物の浴衣も暑くて汗だくだよ! 女の子って大変なんだね。先にシャワー借りていい?」
「ど、どうぞ」
「ありがと。手も……ありがとね。ナンパされて、結構びびっちゃってたんだ」
照れ隠しなのか、雅はいつもの明るい調子に戻って浴室に駆けて行った。
暁翔は一人、リビングのソファに腰かけて脱力する。何かがやばい、と感じていた。
雅がナンパされているのを見て本気で焦った。手を繋いでかなりドキドキした。いずれも同性の友達には抱かない感情だ。もはや自分は、雅を普通の友達だとは思っていない。何度打ち消しても、ブレーキが壊れた車のように突き進んでいく。
雅が気になって仕方がないと。
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