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「どんな仕事なんだ?」
「えっとね、キラボチャンネルっていうテレビの仕事だよ」
『キラボチャンネル』はBSで毎週深夜に放送されている、キラリボーイズのフロントメンバーがメインキャストを務める三十分番組である。歌の他に、メンバー同士が様々なことに挑戦するバラエティコーナーがあり、暁翔は雅と親しくなって以来、録画して密かにチェックをしていた。雅がバックダンサーとして出演するかもしれないと思っていたのだ。
「キラボチャンネルに出るのか! 結構すごいことなんだよな?」
バックダンサーの中でも、この番組にはダンス力がある人しか出られない。
「うわっ、マニアックな番組なのに知ってるんだ!」
「そりゃあな」
雅の活躍を知りたいため、最近はずっと、キラボの活動を気にかけている。ファン同士が交流するファンサイトを覗くこともあり、図らずもキラボのファンになりつつあった。
「で、ダンサーとして出るのか?」
雅は「違うよ」と言った。番組内のバラエティコーナーで秋から料理コーナーが始まるらしく、その企画に関わると言う。
「料理?」
「うん。航貴と聖哉が料理をして、僕は料理のアシスタント。スタジオの隅で下ごしらえをする仕事だよ。ほら、よく料理番組であるでしょ。これを十五分煮ます、とか言って鍋に火をかけて、こちらが十五分煮込んだものですって言って別の鍋を出す。僕は十五分後の鍋を事前に作る係り」
暁翔の脳内に、はてなマークが浮かんだ。
「それって……料理人とか、専門の人がやる仕事なんじゃ」
「普通はね。キラボチャンネルは予算がないから、ちょっとしたコーナーに本職の人を使いたくないんだって。ディレクターさんに、弁当屋の息子なら料理くらいできるでしょって言われちゃった。僕はテレビには映らないんだ……」
テレビに映らず、スタジオの隅で料理を作るのは、完全に裏方の仕事である。アイドルがやる仕事ではないだろう。暁翔に芸能界の仕事はわからないが、雅が理不尽な仕事を押しつけられたことはわかった。しかも最後の仕事に。料理人に払うギャラを惜しんで。
次第に怒りが込み上げてきた暁翔は、むくりと体を起こした。
「そんな仕事を雅にやらせるなんて、ひどくないか? ふざけんなって感じだろ」
「暁翔が怒っても仕方ないよ」
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