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 十九歳の聖哉が、二十六歳の雅の背中をバンバンと叩く。まるで小馬鹿にするように。  暁翔はムッとした。背中を叩く手つきにも眉根が寄るし、年上の雅をこいつと呼ぶことにも悪印象を抱く。 『こら! 聖哉! こいつって言うな!』  テレビの中で雅が聖哉を叱りつけ、エプロンの紐をぐいぐい引っぱって聖哉を縛りつけた。バラエティ番組らしい、ふざけた感じなので笑える範囲だ。  ところが聖哉は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で驚いた。まさか反撃されるとは予想していなかったのだろう。 『いてて! 苦しいよぉ! 雅ちゃん、すんませんでした!』 『わかればよし! さあ作るよ!』  こんなキリリとした雅は初めて見た。チャラい聖哉に対して萎縮するのではと思っていたのに、真逆である。暁翔は瞬きをし、隣の雅を見た。 「雅と聖哉って、いつもこんな感じなのか?」 「ううん。聖哉とは初めて絡んだし、普段も喋らない。ただ、聖哉って表でも裏でもこんな感じだから、まだ十九のくせに生意気だって周りから言われてるんだよね。人気があるせいで、皆遠慮して注意できないんだけど」  雅がふふっと笑む。 「僕はどうせ辞めるし、収録しても放送されるかわかんないし、って思ったら、もう好きにやろうって決めて言っちゃった」  テレビの中では包丁の使い方が危なっかしい聖哉に、雅がビシバシと的確なアドバイスをしていた。普段は生意気な聖哉が、オロオロしながらオムライスを作っている姿はなんだか面白い。雅はさすがに手際が良く、調理のワンポイントアドバイスも入れてくる。雅と聖哉は次第に母と息子のようなやり取りを始め、最後は出来上がった料理を試食した聖哉が『うめーっ! 雅ちゃんは俺の母ちゃんっすか!』と叫んで周囲のスタッフが爆笑したところでコーナーは終了した。  暁翔はしばらく呆然としていたが「面白かった……」と呟いた。 「ほんと?」  雅が不安げに問う。 「うん。次があるなら見てみたい。マジで面白かったよ」  そう言うと、雅は心底ホッとしたように「よかったぁ!」と言ってクッションを放り投げ、暁翔の胸に抱きついた。栗色の柔らかな髪を揺らし、子猫のようにスリスリと頬ずりをしてくる。 (お、おいおい! かわいすぎるだろ!)  心臓がバクバク鳴り始めた。  友達って言ったよな? 友達ってこんな距離感だっけ?  わからない。ただただ狼狽えてしまう。  が、嬉しい。胸の奥で嬉しい気持ちがチラチラと顔を覗かせる。できれば雅の肩を抱きたいけれど、友達として許される接触だろうか。  少し不安だが、先に近づいてきたのは雅だ。肩を抱くくらいは大丈夫、かな?
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