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「へっ!?」  驚きのあまり、暁翔は背筋を伸ばした。  雅の声が急に狼狽え始める。 『暁翔ぉ、どうしよう! 僕がフロントなんてできるのかな。めちゃくちゃ怖いよ! そりゃ、いつかフロントになりたいとは思ってたけど、それでも……!』 「お、落ちつけ! ほんとにフロントなんだな?」 『うん。でも僕、ほんの数ヶ月前にはクビを宣告されてたんだよ? それがちょっと注目されたからって、いきなりフロントなんて!』  フロントへの加入は通常、将来性を見据えて年齢の若いメンバーが選ばれる。二六歳の、たまたま注目を浴びただけの雅が抜擢されるのは、かつてないことだった。まさに大抜擢。  暁翔も動揺して立ち上がり、部屋中をぐるぐる歩き回った。だが急に笑いが込み上げてきて、フッと声を漏らす。 『暁翔、笑ってんの!?』 「いや、なんかさ、ちょっと前まではどん底だったのに、すごい変化だなって。漫画みたいだ」 『ほんとだよね。いまだに信じられないよ。嬉しいというより、なんで? って感じ』  暁翔はスマホを強く握りしめた。 「でも、これは大きなチャンスだな。雅なら大丈夫、フロントメンバーとして、きっとうまくやれるよ」  声に熱がこもる。 『えぇ! どうしてそう思うの?』 「まず、雅と聖哉のやり取りが面白い。料理コーナーが始まって以来、聖哉の好感度も上がってるし、コンビで売り出せばもっと人気が出ると思う。それに、二六歳がフロントの新入りっていうのも目新しくていい。十年もバックにいたやつがフロントになるなんて、人に夢を与えられるよ。俺が雅をフロントに選ぶなら、そういう理由だ」  もしも自分がキラボのプロデューサーだったら、どんな風に考えるだろうと思案し、こんな結論に至った。普段、舞台を演出家としてまとめているせいか、ついまとめ役の立場で物事を考えてしまう。 『なるほど、暁翔はプロデューサー目線なんだね。さすが、演出家さんだな』 「そ、そうか?」  演出家と言われると、やはり嬉しくて照れてしまう。  キラボで一番人気の航貴が抜けると、二番手の聖哉がトップになる。トップは当然ながら、メディアへの露出が多い。  雅が聖哉と組んで仕事をすれば、必然的に露出が増えるだろう。本当に大きなチャンスだ。 「なぁ雅、これが最後だと思って、がんばってみたらどうかな」 『んー……もし失敗したら……暁翔の劇団で俳優として雇ってくれる?』  思わず苦笑した。 「人を雇えるような劇団じゃないよ。俺ができるのは、せいぜい家で旨い茶と、羊羹を用意するくらいだな」  雅の溜息が聞こえた。 『あーあ、暁翔のお茶、飲みたいなぁ。羊羹食べて、畳の上でゴロゴロしたい。最近全然、暁翔に会えてないよ』
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