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「次はいつ来られそう?」
『わかんない。この前、ちょっと早めに仕事が終わったから暁翔の家に行ったんだけど……』
「来てたのか!」
『うん。でも暁翔、まだ帰ってなかった。行く前に連絡すればよかったね。劇団の稽古で忙しいかなと思って、連絡するの遠慮しちゃった。会えればラッキー、くらいの気持ちだったし』
「俺、最近稽古で帰りが遅いんだよ」
会いたかったな……。
雅のほうが忙しいのに遠慮させてしまい、申し訳なさと落胆でうなだれる。 しかし、そうだ、と暁翔は妙案を思いついた。
「なぁ、うちの庭に青い鉢植えがあるだろ。あの鉢植えの下に家の鍵を置いておくから、それ使って勝手に家に入ってくれ」
『え、いいの!?』
驚いた声が耳元で響く。
「ああ、鍵はそのまま持ってていいから」
雅の身元はわかっているし、少しでも会えるなら鍵を渡すくらいなんでもない。
『ほんとにいいの?』
「もちろん。疲れたとき、この家でのんびりしてほしいんだ」
『嬉しい……! ありがとう暁翔、時間ができたら必ず行くね!』
笑顔が目に浮かぶような弾んだ声が聞こえ、暁翔の胸があたたかくなった。
「待ってるよ」
まるで愛しい恋人に対して言うような言葉が、自然と口から零れ出た。
それから数日して暁翔が帰宅すると、青い鉢植えの下に置いていた鍵が消えていた。キッチンの小鍋には、暁翔が好きなぶり大根が。雅の手料理である。
テーブルの上に彼の字で「鍵のお礼だよ。食べてね。もっと色々作りたかったけど……。また来るね」と手紙が残されていた。
おいしい手料理と手紙をもらい、嬉しくなって手紙を大事に手帳に挟む。
仕事で疲れているだろうに、自分の好物を作ってくれた雅の気持ちも嬉しい。会えなかったけれど心が満たされた。
(俺も料理ができるようになれば、疲れた雅をおいしいもので癒やしてあげられるかもしれない)
雅と一緒にならキッチンに立てるが、一人では心許ないのが実情。初心者向けの料理本でも買って、勉強してみようかと考える。
手紙の横には大晦日に行われる、キラボのライブチケットもあった。
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