3

9/25

342人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「次はいつ来られそう?」 『わかんない。この前、ちょっと早めに仕事が終わったから暁翔の家に行ったんだけど……』 「来てたのか!」 『うん。でも暁翔、まだ帰ってなかった。行く前に連絡すればよかったね。劇団の稽古で忙しいかなと思って、連絡するの遠慮しちゃった。会えればラッキー、くらいの気持ちだったし』 「俺、最近稽古で帰りが遅いんだよ」  会いたかったな……。  雅のほうが忙しいのに遠慮させてしまい、申し訳なさと落胆でうなだれる。 しかし、そうだ、と暁翔は妙案を思いついた。   「なぁ、うちの庭に青い鉢植えがあるだろ。あの鉢植えの下に家の鍵を置いておくから、それ使って勝手に家に入ってくれ」 『え、いいの!?』  驚いた声が耳元で響く。 「ああ、鍵はそのまま持ってていいから」  雅の身元はわかっているし、少しでも会えるなら鍵を渡すくらいなんでもない。 『ほんとにいいの?』 「もちろん。疲れたとき、この家でのんびりしてほしいんだ」 『嬉しい……! ありがとう暁翔、時間ができたら必ず行くね!』  笑顔が目に浮かぶような弾んだ声が聞こえ、暁翔の胸があたたかくなった。 「待ってるよ」  まるで愛しい恋人に対して言うような言葉が、自然と口から零れ出た。  それから数日して暁翔が帰宅すると、青い鉢植えの下に置いていた鍵が消えていた。キッチンの小鍋には、暁翔が好きなぶり大根が。雅の手料理である。  テーブルの上に彼の字で「鍵のお礼だよ。食べてね。もっと色々作りたかったけど……。また来るね」と手紙が残されていた。  おいしい手料理と手紙をもらい、嬉しくなって手紙を大事に手帳に挟む。  仕事で疲れているだろうに、自分の好物を作ってくれた雅の気持ちも嬉しい。会えなかったけれど心が満たされた。 (俺も料理ができるようになれば、疲れた雅をおいしいもので癒やしてあげられるかもしれない)  雅と一緒にならキッチンに立てるが、一人では心許ないのが実情。初心者向けの料理本でも買って、勉強してみようかと考える。  手紙の横には大晦日に行われる、キラボのライブチケットもあった。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

342人が本棚に入れています
本棚に追加