344人が本棚に入れています
本棚に追加
暁翔はホッとした。内心、航貴の代わりに雅がフロントに加入することに、不満を抱くファンもいるのではないかと心配していた。実際、不満に思うファンもいるだろうけれど、会場内の雰囲気は雅を歓迎しているようである。
キラボは他のアイドルグループよりメンバーの入れ替えが多い。ファンは入れ替えに比較的慣れているとファンサイトで情報を得ていたが、その通りらしい。
やがてフロントメンバーが、アップテンポなリズムに合わせて踊り始めた。もちろん雅も一緒に。弾けるような照明の中、六人で息の合った歌とダンスを披露する。彼らはまるで、花火の下で踊っているようだった。
暁翔はふと、夏に見た花火を思い出した。
土砂降りの夜、雅と二人で眺めた雨の向こうの花火──。
自宅の窓の前で、雅が言った言葉を思い出す。
──僕の頭上にはいつまで経っても晴れない雨雲がかかってた。フロントでライトを浴びて歌ってるメンバーを羨ましく思いながら見てたよ。向こうは花火なのに、こっちは雨が降ってる。
あの頃の雅は、花火のような世界で活躍するフロントメンバーを羨んでいた。それが今、彼自身が花火の世界に堂々と立っている。大勢のファンから歓声を浴びている。いつものふわふわした表情とは別人の、人気アイドルの顔つきで。
よかったな、夢を叶えたんだな……と、暁翔は胸中で雅に話しかけた。彼が遠く、手の届かないところへ行ってしまったような、一抹の寂しさを感じながら。
最初のコメントを投稿しよう!