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 新年を迎え、月末に冬公演を控えた『劇団リアル』は、京介を除いた全員で稽古に励んでいた。公演まで一ヶ月を切った今、稽古はほぼ毎日行われる。  団員達は仕事を終えると、町外れの公民館に集合した。役者が九人、暁翔を含めた裏方が五人集い、本番に向けて稽古を重ねている。  当初、団員達に京介の不参加を説明したとき、みんなはかなり不安な顔つきになった。  京介は大御所である西園寺のために脚本を書き、なおかつ役者として西園寺企画の舞台にも出演する。それについて、裏切られたみたいで面白くないという声もあった。  だが今は、転勤で劇団を離れる梨乃(りの)の最終公演を成功させようと気持ちを切り替え、一丸となっている。  このまま京介がいなくなれば、この冬公演がリアルの最後の舞台になるかもしれない。そんな予感も感じ取っており、今までにないほど団員達は意気込んでいた。  京介が用意した既成の脚本の主役は女性だった。前半はドタバタのコメディ、後半は様々なトラブルを乗り越えたその女性が、自分の生きる道を見つけて旅立つという、梨乃へのはなむけのような内容だ。   稽古中、主役を演じる梨乃は目を見張るほどの演技を披露した。京介がいない分、私ががんばらなくちゃね、と気合い十分である。  公民館にステージはない。室内の一角をステージに見立てて稽古をする。学校の教室ほどの広さしかないので、稽古場としては手狭だ。公民館が所有する折りたたみ式の机が部屋の隅に置かれているため、さらに狭くなっている。しかし安く借りられる以上、我慢するしかない。  今夜も役者達がTシャツとジャージ姿で懸命に演技をする様子を、暁翔は演出家として真剣に見つめた。 「よし、ここまで!」  暁翔が両手をパンと打つと、役者達が一斉に動きを止めた。 「どう? 気になるところはない?」  赤いジャージ姿の梨乃が、タオルで汗を拭きながら尋ねた。ストレートのロングヘアがよく似合う彼女は、いつも凜としている。大学生の頃はモデルのバイトをしていたほど容姿端麗、背も高い。ぱっちりとした二重が特徴的で、立ち姿には自信が満ちている。  暁翔は先ほどまでの演技を思い返し、舞台全体がより良くなるためにはどう指示を出すべきか思案した。 「そうだな……さっきのところはもっと派手に驚こう。全員でワッと」 「了解。任せて」  他の役者達もうなずいた。
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