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 フロントに加入したばかりの雅は、きっと多忙を極めているはず。そう思い、連絡するのを遠慮していた。スマホのメッセージでごくたまに軽いやりとりをするくらいだ。  雅からもほぼ連絡はない。スマホに一度『冬公演、絶対に観に行くね』とメッセージが届いただけ。堂島家の合鍵も使われない。  それに──。  大晦日のライブを観て以来、雅との間に隔たりができたような気がしていた。花火の世界へ行ってしまった彼と、相変わらず雨の中にいる自分。以前は似たもの同士だと思っていたけれど、今は住む世界が違う。  雅に会えないのは寂しい。でも会うと、自分が惨めになる気がする。  フロントに入れと背中を押したのは自分だ。しかしライブで雅のキラキラした姿を目の当たりにした後から、引け目を感じるようになっていた。あいつは夢を叶えたのに、俺は何をやっているんだろうと。  我ながら情けない。思考がどんどん暗くなる。今のままの冬公演を、雅に観せる自信がない。  梨乃に「仲間の京介を応援しなきゃだめでしょ!」と怒られ、結局、西園寺の舞台を一緒に観に行くことになってしまった。  やがて一月中旬になり、京介が脚本を書いた『西園寺企画』の舞台が幕を開けた。  公演初日、暁翔と梨乃が劇場へ赴くと、七〇〇はある客席が全て埋まっていた。一階席から三階席まで、老若男女が期待に満ちた表情で開演を待っている。  物語の内容は現代社会の中で若者がもがく群像劇。京介の物語を、西園寺がどう料理するのだろう。  暁翔は期待と不安を胸に席に着いた。隣に腰かけた梨乃も少し緊張している。  そして終演後──。  二人は思い切り脱力した。一瞬たりとも目が離せない、圧巻の一言に尽きる舞台だったのだ。  ちょい役で登場した京介も味のある演技で印象に残った。だが何よりこの舞台をまとめ上げた演出家、西園寺の力を思い知らされた。  周囲の観客はスタンディングオーベーションで感動の拍手を送っている。もう一度観たい、一生忘れられないかも、と口々に感想を言い合っていた。  暁翔は大きく自信を失った。自分では京介の脚本を、あんな風に演出できない。観客をこれほど感動させられない。
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