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ガツガツしていないのは、そこまで誰かに心を奪われたことがないから。
けれど雅が女性なら……と考える。
雅が女性なら、振り向かせるために懸命にアプローチをするだろう。つき合えたなら多分夢中になる。もしかしたら、好きだと叫ぶかもしれない。
(あいつが女なら、とっくに口説いてる)
考えても仕方のないことだった。
それに雅が男でも、連絡がない日々は寂しい。元気だろうか。厳しい芸能界で辛い思いはしていないだろうか。多忙で疲れている彼に連絡をしても迷惑ではないだろうかと、思いを巡らせてしまう。
梨乃と別れた暁翔は一人、電車に揺られて帰路についた。
自宅に戻り、リビングの灯りをつける。雅がコーディネイトしたリビングは、変わらずかわいい雰囲気でまとまっていた。彼がいつ来てもいいように、暁翔はマメに掃除をしている。観葉植物の手入れも欠かさない。
自分の不在中に雅が来ていなかっただろうか。気になって室内を見渡したが、手紙などの痕跡はない。がくりと肩を落とした。リビングはしんとしている。
そしてハッとなった。
会えば自分が惨めになる気がしていたのに、やっぱり会いたいのだ。
もうずいぶん会っていない。テレビやネットで顔は見られるけれど、直接会いたい。彼が心配だし、花のような笑顔を間近で見たい。こんな落ち込んだ夜は特に。
そもそも雅はライバルではないのだから、引け目を感じるなんておかしいだろう、と暁翔は自分を叱責した。勝手に一人、雨の中に取り残された気分になっていた。連絡せず、会いもせず、夢を叶えた彼を応援しないなんて。
(俺、ちっせえ……)
己の小ささが嫌になる。
壁に掛けてある時計を見た。時刻は午後十一時。雅は何をしているだろうか。元気か、無理するなよ、とメッセージだけでも送ろうと思い立ち、スマホに手を伸ばす。
すると突然スマホが電話の着信音を鳴らしたので、落としそうになりながら画面をスワイプした。雅からだ。
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