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「も、もしもし!」
『暁翔、もう寝てた?』
「いや、雅に電話しようとしてた」
『ほんとに!? 嬉しい! いつでも電話してよ!』
喜びに溢れているような声だ。
「でも……忙しいだろ。あんまり連絡したら悪いかなって」
『出られないときは、後で絶対に折り返すから! 暁翔こそ忙しいんじゃない? 冬公演、もうすぐだよね。邪魔しちゃ悪いと思ってたんだけど……』
「もしかして、だから連絡をくれなかったのか?」
『うん』
互いに気を遣っていたらしい。連絡がない理由がわかって安堵の息をついた。電話の向こうでも似たような吐息が聞こえ「よかったぁ。避けられてたわけじゃなかったんだ……」という小さな独り言も聞こえた。
「さ、避けるわけ、ないだろ」
会うことに躊躇していたので心苦しい。もっと早く連絡をするべきだったと反省する。
『えへへ、声が聞けてよかった』
暁翔の頬が緩んだ。俺もだよ、と素直な気持ちを口にするのは照れるので言えないけれど、嬉しい。
「雅、今どこ? またホテルに泊まってるのか?」
『うん、明日はロケで早いから。あのね、今日は謝りたいことがあって電話したんだ』
なんだろう。少し不安に思いながら続きを待つ。
『えっと……『劇団リアル』の冬公演、観に行けなくなった。ごめん。新曲のPVの撮影で、ハワイに行くことになって』
「そっか……。仕事なら仕方ないよな」
冬公演は四日間公演する。雅がハワイから帰国するのは公演最終日の夜だった。最終日は昼間に公演を行うため、絶対に間に合わない。
現状、冬公演の演出には自信がない。だが少しも観てもらえないとなると、さすがに残念な気持ちが湧いてくる。
『ほんとにごめん。すごく楽しみにしてたのに……』
申し訳なさそうな声が聞こえ、暁翔は気を取り直した。
「気にすんなって。PVでハワイってすごいな。人気アイドルっぽいよ」
『ハワイなんてベタだよね。でも初めて行くからドキドキしてる』
「大変だろうけど、楽しんでこいよ」
『うん。でもやっぱり、暁翔が作る世界を観たかったな』
「え……?」
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