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「今回は俺が勝手を言うてほんまに悪かった。次は他の舞台と両立できるように、なんとかやりくりする。せやからまた、一緒にやってくれへんか」
暁翔も京介を睨むように見据える。
「両立なんてできるのか? おまえは西園寺さんのところへ行ったほうが、夢に近づくんじゃないのか?」
「そんな冷たいこと言わんとってくれ! 俺は何よりもリアルが好きやねん! リアルのみんなで夢を叶えたいんや!」
「西園寺企画に浮気したくせに?」
「ううっ! す、すまん……」
しょげる京介を見て、暁翔はフッと笑った。本当は京介が一緒にやりたいと言った時点で、大歓迎だったのだ。
「別に怒ってないよ。ちょっと意地の悪いことを言ってみただけだ」
「ほ、ほんなら!」
「京介がその気なら俺は構わない。俺一人じゃやっぱり心許ないしさ。ただ、他の団員にもちゃんと話をしとけよ」
「おう!」
喜ぶ京介の横で、梨乃が笑顔になった。
「良かった! リアルが解散するんじゃないかと思って、心配でついてきたけど、なんとかなりそうね。私も転勤さえなければ、次の舞台にも出たいのに」
「転勤、やめたらどうや?」
「それができるならやってるわよ! あーあ! 転勤したくない!」
ふて腐れる梨乃を、京介がまあまあとなだめた。
また仲間と一緒に芝居ができる。それだけで今は十分である。夢を見る年齢ではなくなったと思っていたが、まだまだやめられそうにない。
大きな劇団にすることは難しくても、いつか採算が取れる劇団には成長させたい。もちろん、利益を出すことだけが全てではない。楽しみにしてくれている人のために、舞台を作りたい。
雅に劇団が存続すると伝えたら、きっと喜んでくれるはず。彼の笑顔を思い浮かべるだけで、暁翔の心が明るくなった。
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