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4  一月下旬、『劇団リアル』の冬公演が無事に幕を下ろした。  収容人数八十名の小さな劇場を四日間なんとか満員にでき、多くの観客から面白かったという感想をもらえた。興行収入もおおむね良好で、大赤字にはならずに済んだ。  京介も「ほんまによかったで!」と世辞抜きで賞賛してくれた。主役を務めた梨乃は公演後の舞台挨拶で涙を流し、暁翔も舞台袖で胸を熱くした。 『西園寺企画』の舞台には遠く及ばなくても、自分達の舞台を楽しみにしてくれている観客には届くものがあったのではないか。少しは自信を持ってもいいのではないか。そう思えるほど、団員達のパワーが詰まった舞台だった。  芝居は趣味の範囲でいい、劇団が解散しても仕方ないと以前は諦めていたが、舞台が成功して充実感を覚えると、諦めたくないという気持ちが高まってしまう。  やはり芝居が、『劇団リアル』の仲間が好きだ。好きだからこそ続けたい。たとえ雅や京介のように、大きく飛躍できなくても。  そして次こそは、雅にも観てもらいたい。  彼に励まされたおかげで今回の公演を乗り切れた。いや、励まされただけではなく、雅を想うだけで力が湧いた。好きな人の存在の大きさに驚いてしまう。    撤収後、そんな気持ちを胸に、暁翔は団員達と駅前で夕食を食べて帰路についた。追ってきた京介が、久しぶりに暁翔の家に泊めてくれと言うので一緒に駅へ向かう。  すると梨乃が「ねえ! 私も行く!」と言ってついてきた。 「なんや、梨乃も泊まるつもりなんか?」  京介が怪訝な顔をした。 「泊まりはしないけど……ちょっと、二人と話がしたいから」  今後の劇団の行方が心配なのかもしれない。三人で電車に乗り、堂島家に向かった。  京介は予想通り『西園寺企画』の次の脚本を依頼されたそうだ。ということは、『劇団リアル』の次の公演にも参加できないはず。劇団はおそらく解散だろう。  帰宅した暁翔は落胆を隠し、二人のためにあたたかい茶をいれた。  初めて堂島家を訪れた梨乃は「なんか、かわいいリビングね」と言って不思議そうに室内を見回している。  ソファにドカッと腰を下ろした京介が「実はな」と言った。 「今日、西園寺さんがリアルの舞台をこっそり観に来とったんや。暁翔の演出、悪うないって言うとった」  湯飲みを持つ手が震えた。大御所から好意的な感想をもらえるなんて。 「マ、マジかよ!?」 「おう。役者もようがんばっとったって、褒めとったぞ」 「ほんとに!?」  目を丸くした梨乃が、京介の隣に座る。 「俺は今回の舞台に参加できんかったことを、めっちゃ悔やんだ。主宰は俺やのに、みんなに任せっぱなしで……俺は何をやっとんのやって自分に腹が立った」 「京介……」  暁翔がソファの前のローテーブルに湯飲みを置くと、京介が目力のある瞳で真剣に暁翔を見据えた。
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